『いちばんすきな花』物語を動かす“間違い探しと答え合わせ” 美鳥登場で先の読めない展開に

 仕事を通じて知り合った人と、同級生として出会った人と、親戚として時々顔を合わせる人と……きっと人は無意識レベルで違う側面を見せている。それが出会った時期や、当時の環境によって大きな変化があれば、なおのこと。でも、どの顔がその人の本当の姿かなんて決められない。どの印象も間違っていないし、全部正解なのだから。

 木曜劇場『いちばんすきな花』(フジテレビ系)第7話は、これまでにも増して脚本の妙が光る回だった。物語を動かすキーワードは「間違い探しと答え合わせ」。間違い探しの本を手にした少女が「どっちが間違い?」と問うセリフはまさに象徴的なシーンで、世の中には「これが正解」というはっきりとした答えがないことのほうが多い。間違いだと思っていたものが実は答えだったり、あるいはその逆だったりすることが往々にしてある。なのに人は、最初に思い込んだ情報を「正」として考えてしまいがちだ。それが、ときに思考を鈍らせたり、視野を狭めたりしていることを知っていても、なかなか気付けないものだ。

 筆者は、ゆくえ(多部未華子)が度々電話をしていたミドリちゃんは、赤田(仲野太賀)のようにかつて塾で出会った同い年の女友達なのだろうと思っていた。赤田と仲違いしたことを相談しながら、3人ならまた昔のようになれるのか……なんて話していたから、てっきりそう思い込んでしまったのだ。だが、実際の関係性は心を許した塾の先生だった。ゆくえが今、勤務先で生徒から「ゆくえちゃん」と呼ばれていることが、ここにきて効いてくる。

 そして、かねてより紅葉が(神尾楓珠)が会いたいと願っていた恩師も「ミドリ」だった。以前、椿(松下洸平)の家に住んでいたということ、そして表面的に人気者として評価されていた紅葉の本性に気づき、ズバッと指摘してきたこと。さらに、いつも不機嫌そうにしながらも紅葉に「またおいで」と言ってくれたという気難しそうなエピソードから、ずっと年上の、なんなら今ごろは現役を退くほどの落ち着いた年齢の先生を想像してしまっていた。きっと、最初に「ミドリ」という名前が明かされていたら、またイメージは全く違っていたことだろう。

 加えて、新たに椿の家を買い戻したいと申し出てきたかつての住人が、椿の中学時代の同級生の「ミドリ」であることが判明する。その時期のミドリは荒んでいて、少々やんちゃだったそう。なかなか学校にも来なかったというミドリと椿は、傍から見ても仲良しという関係性ではなかったものの、椿にとってはかけがえのない存在だったことがうかがえた。そして、偶然にも夜々(今田美桜)が慕う穏やかな印象を持つ、いとこのお姉ちゃんも「ミドリ」であるとわかる。

 ゆくえ、紅葉、椿、夜々。これだけ珍しい名前が4人集っていれば、「ミドリ」という名前は“よくある名前“だと思うのもまた思い込みのトラップだった。しかし、そこに「美鳥」と書いて「ミドリ」と読む漢字の珍しさと、独身時代は「志木」、結婚していたころには「小花」という名字の情報が追加されると、対象人数がグッと絞り込まれる。もはや同姓同名の「志木/小花美鳥」(田中麗奈)が4人もいるとは思えないという気持ちになる一方で、それぞれが語る美鳥の印象のギャップに戸惑いを隠せない。

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