『ザ・クリエイター/創造者』が驚きに満ちた一作となった理由 製作背景などから考察

 『ザ・クリエイター/創造者』は、VFXが多用されたSF映画として娯楽的な要素に満ちた内容でありながら、同時にこれまでの同種の作品には見られないような、新鮮な驚きをもたらしてくれる一作となった。舞台となる未来のアジア圏を、CGによる非現実的な要素がふんだんに組み込みながら、圧倒的なスケール感とリアリティある映像が両立させた仕上がりとなっている。その達成度は、よくあるSF超大作映画の一歩先をいったものとなっている。

 にもかかわらず、むしろ予算はハリウッド映画の中規模から大作までのゾーンである8000万ドル程度に収まっているのだという。それでいて、2億ドルをかけた超大作映画よりも充実したものになっているように感じられるのが不思議だ。これはいったいどういうことなのか。本作『ザ・クリエイター/創造者』の製作背景と内容を振り返りながら、その驚きの理由を考えてみたい。

 作品の舞台は2075年、ロサンゼルスで大勢の被害者を出した核爆発の原因がAI(人工知能)にあったとして、人間型のAIたちが破壊され排除される時代だ。しかしアジア圏の一部では、これまでのように人間とAIの交流がおこなわれており、「クリエイター」と呼ばれる謎の人物はAIによる兵器を生み出すことになる。「クリエイター」およびAIを脅威と考えるアメリカ政府は暗殺部隊を編成し、元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)の協力のもと任務を遂行させようとする。しかしジョシュアが出会ったのは、幼い少女の姿をした、超進化型AIだった。ジョシュアは敵方に存在していると考えられる妻と再会するため、命令に反して彼女を護衛しながら旅をすることになるのだった。

 このストーリーは、脚本も担当したギャレス・エドワーズ監督らしい、反骨的で多様性を尊ぶ内容となっている。西側諸国で考えられている常識とは全く違う価値観の世界があり、そこにこそが正しい生き方があるのかもしれないという、問の投げかけや、AIやその協力者たちの命を守る戦いは、ハリウッドの娯楽映画においてアメリカの原爆投下の歴史的な罪を暗示した『GODZILLA ゴジラ』(2014年)に通じるものがあり、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)に通じる、弱者の側からの革命への思いがある。

 本作がショッキングなのは、未来のアメリカを打倒されるべき悪として描いたという点だ。このような内容をハリウッドの娯楽映画として提出するパンクな精神が、エドワーズ監督にはある。現実のアジアが、ここで登場するような、西洋のカウンターとしての正しさを持っているのかといえば疑問も残るが、あくまでエドワーズ監督は、強者の傲慢だったり差別的な価値観に対して反発しているように感じられる。だから同じ構造の問題は、アジア圏のそれぞれの国々も共有しているということだろう。

 このようなテーマとしての刺激以外に、本作には表現手法としての驚きもある。CG表現が多用されているはずなのに、実写映像の魅力が強く発揮されているのである。アジアの農村の風景などのなかに、人間型のAIが無理なく溶け込んでいるという、あたかも未来のドキュメンタリー映像を鑑賞しているような不思議な臨場感を覚えるのだ。

 エドワーズ監督は、自身による新たな大作映画の制作手法の確立について、意気揚々と各メディアのインタビューで述べている。それは、絵コンテなどで構図や風景をはっきりと決めてから、大規模なセットを建造するなどして欲しい絵を実現させるのではなく、撮影場所である実際の風景をそのまま利用して、そこにCGなどの特殊効果を加えるといった方法を採用しているというのだ。また、暗所の撮影に適した、大がかりな照明を必要としないカメラによって、設備が軽量となり、少人数での撮影が可能となったということだ。VFXには多くの製作費を投じている本作ではあるが、撮影では驚くほど費用を節約できているのだという。

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