『バレリーナ』がこだわった映像表現 画面の美的な完成度によって獲得した優雅さ

 近年、とくに世界が韓国映画、ドラマに期待しているものといえば、恋愛よりもバイオレンス表現なのではないか。エクストリームな内容はインターネット配信との相性が良く、Netflixでも続々と過激な描写がある韓国作品がリリースされている。なかでも、女性を主人公にして男性を相手に死闘を繰り広げる、ドラマ『マイネーム:偽りと復讐』や映画『キル・ボクスン』(2023年)のような作品の現代性が目立っている。

 そういった女性の過激な格闘、サバイバルを描くNetflix配信作品に新たに加わった映画作品が『バレリーナ』である。配信されるや、Netflix映画のグローバルTOP10で6位を記録し、韓国、香港、日本、シンガポール、台湾、ベトナムなどアジア諸国で1位を獲得することとなった。(※)

 そんな復讐バイオレンスアクション『バレリーナ』の魅力や、観るべき点がどこにあるのかを、ここでは解説していきたい。

 本作は、非常にシンプルなストーリーで構成されている。元要人警護員で格闘術や武器を扱うことのできる女性オクジュ(チョン・ジョンソ)は、かつての同級生でバレリーナとして活躍しているというチェ・ミニ(パク・ユリム)と偶然に再会する。二人が友情を深めていくと、いつしかオクジュはミニとの関係が生き甲斐になっていく。だが、ある日ミニは「必ず復讐して! あんたならできそうだから」というメモを残し、自ら命を絶ってしまうことに。オクジュは、ミニを死に追い込んだ、変態的な趣味のあるチンピラの男性チェプロ(キム・ジフン)に接近し、彼女の無念を果たそうとするのだった……。

 恋人や配偶者、家族を殺害されるのではなく、女性同士の友人が死に追いやられたことへの復讐であることがやや現代的だとはいえ、この内容は昔からよくある、典型的な“復讐もの”に位置付けられるだろう。この後の展開でも、特筆するほどの大きなひねりや複雑な展開は用意されていない。そこにはシンプルであるがゆえの強度があるとはいえ、この点ではさすがにとっかかりが少な過ぎる。つまり、本作の魅力の核となっているのはストーリーではなく、見せ方の方だということだ。

 その魅力を端的に表しているのは、主人公のオクジュが食料品店を襲った強盗を、通りがかりに苦もなく倒すといったアバンタイトルのシーンだ。韓国のミュージシャンGREYのクリエイトする繊細なサウンドとももに、背中から光を浴びるオクジュを横から映し出したカットに、「BALLERINA」というピンク色で大きなサイズのタイトルが被る、ポップかつスタイリッシュな演出が決まるところで、この作り手の志向が主にビジュアルにあることを理解するのである。

 映像へのこだわりは、全編で共通しているといえよう。舞台が切り替わるごとにカラーコーディネートが変化し、丁寧に作り上げられた美術とともに完成度の高い映像世界か連続していくのである。とはいえ、それはただ美麗な映像に収まっているというわけではない。それが主人公の主観的でエモーショナルな世界とリンクしていることで、この美的な表現が上滑りに終わっていないのである。

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