ドニー・イェンが世界中から尊敬を集める理由 最高を更新し続けるアクションの凄み

 「ここ10年で最も優れたアクション」「21世紀最高のアクション」「100年に1度の出来」といった感じで新作が出る度にボージョレ・ヌーボー的な評がつくものの、ただの惹句ではなくマジであることでお馴染みの『ジョン・ウィック』シリーズ最新作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』が公開された。そんなシリーズであるため、今回もまた最高を更新してくれている。でも冷静に考えてほしい。4作も続くシリーズが毎回最高を更新することなんてあるのだろうか。まああるのだから仕方がない。

 しかし「前作を超える」というのは続編映画に求める全てではあるものの、これをできる映画はなかなかない。特に『ジョン・ウィック』シリーズは毎回アクション映画の究極を見せてくれる。究極は究極であり、それ以上はない。特に前作『ジョン・ウィック:パラベラム』はアクションの物量・クオリティ共にハリウッド映画のアクションにおける頂点に至っていた。流石にもう、これ以上はない。当時はそう思った。

 それがこれは、一体どういうことだろうか? まさに100年に一度の出来。しっかりと『ジョン・ウィック:パラベラム』を超える映画を目の当たりにした。荘厳かつ苛烈であり、どこまでも馬鹿馬鹿しい、異常なアクション。壮大な世界観。なぜこのようなことが可能になったのだろうか。それはチャド・スタエルスキ監督とキアヌ・リーブスによる不断の努力の結果であることは言うまでもないが、理由のひとつとして格闘アクション映画オタクの見る白昼夢みたいなキャスティングが挙げられるだろう。

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 真田広之にスコット・アドキンス! それにマルコ・サロールまで! この記事では彼らの説明を泣く泣く割愛するが、特にスコット・アドキンスとマルコ・サロールがただのアクション要員ではなく、人格を持ったキャラクターとして大作映画で活躍してくれたことが涙が出るほど嬉しかった。当然ではあるものの、やはり格闘技のバックグラウンドがある俳優のほうが優れたアクションができることのほうが多い。『マトリックス』を撮るまで武術の経験がなかったキアヌ・リーブスの柔術スキルが極まっているのがおかしいだけで、大抵の場合はそうだ(無論アクションのバックグラウンドのない演技派の俳優は俳優で彼らなりの魅せ方があり、そういったアクションもまた素晴らしい)。

 そんな豪華キャスティングの中で、キアヌ・リーブス演じるジョン・ウィックのライバルとして登場し、破格の印象を残したのがケイン役のドニー・イェンだろう。盲目の殺し屋でニヤリと不適に笑ったかと思うと、次の瞬間キレキレのスピードで仕込み杖を振り回している。とにかく圧巻の活躍を見せてくれたのがドニー・イェンだ。『ジョン・ウィック』シリーズが好きならドニー・イェンも好きな人が多いとは思うが、中には「なに? この異常な速さで動く人……」となっている人も多いだろう。

 ドニー・イェンことドニーさんは「宇宙最強」といういくらなんでもデカすぎる二つ名を持つ香港を代表する格闘アクション俳優だ。また、キレキレのアクションをするだけでなく役柄に入り込む繊細な演技をすることでも有名だ。今年還暦を迎えたドニーさんだが、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』撮影当時はなんと58歳。明らかに人間離れしたそのキレは未だ衰えることを知らない。

 そんなドニーさんは自分大好きなナルシストであることでも知られ、彼のInstagramを覗くとキャプションに時折「#宇宙最強」とつけていることがある。またドニーさんのファッションブランド「DY Edition」には、「宇宙最強」と背中にデカデカ印刷されたTシャツが販売されている。おまけにこのTシャツは「宇宙最強」の「宇宙」の部分にドニーさんの中国名である「子丹」が隠れており、そんなワンポイントアクセントがこの秋、周りとの差をつける(なぜなら宇宙最強だから)。

 閑話休題。とにかくドニーさんは自分大好きな宇宙最強のアクション俳優であり、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に出演していることからも世界的なスターであることがわかる。とはいえ、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を既に観賞した者にとってはドニーさんがいかに優れたアクション俳優であるかは一目瞭然だろう。なにせとんでもなく速く、そしてかつての友を殺さなければいけない複雑な役柄を見事演じ切っているのだから。

 しかし、彼が世界中のアクション俳優やアクション監督から尊敬されているのは、なにも動きが異常に速くて演技が上手いからだけではない。実は、ドニーさんはアクション監督としても世界的に有名なのだ。アクション監督としてのドニー・イェンの功績はすさまじく、ドニー・イェンの“ミーム”は世界中に影響を与えている。それは『ジョン・ウィック』シリーズも無関係ではない。そのため、この記事ではアクション俳優としてのドニー・イェンではなく、アクション監督としてのドニー・イェンに言及することにする。

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