『らんまん』を傑作にした制作陣全員の信頼感 神木隆之介×長田育恵は最高の化学反応に
さらに、そうした長田の視聴者への信頼を土台に、脚本の余白を埋め、生きた人間のやりとりとして立体化し、自然につないでいったのが、座長・神木隆之介をはじめとした役者陣でもあった。
そうした事情が見えたのは、9月22日放送分『あさイチ』(NHK総合)の「プレミアムトーク」に神木が出演したとき。VTR出演した竹雄役の志尊淳は、神木と共に現場を楽しませるために、「これやろう、これやろう」「このセリフ作ってもらわない?」「このシーン、作ってもらわない?」などとプロデューサーや監督に打診していたことを明かしていた。
また、長田は「人間の欲望に立ち向かう」というセリフが神木自身のアイデアで、この後の万太郎の生き方を表すものだったこと、強い言葉を書くのが怖かったが、神木が提案してくれたことで落ち着いたと告白。
加えて、神木が現場の中で、人の関係性などがブレないよう、敬語の使い方や言い回しなどに手を加えていたことを語る場面もあった。
特に寿恵子との会話シーンを増やしてほしいとして、「この夫婦なら乗り越えていけるだろうと思うような」「なんの変哲もない、起承転結もない、美味しい? そうでしょう?というようなやり取り」を提案したと言う。
緻密に繊細に構築された脚本であっても、生身の人間が口にすることでニュアンスが変化することはあるもの。それは演者によっても、現場の空気や流れによっても、そのときの最適解は変わってくるのだろう。
これは万太郎という人物と、万太郎と関わる人々との関係性を誰より生身として深く理解している神木の力量によってもたらされたリアリティであり、それを成立させたのは、役者の提案を柔軟に受け入れる脚本家・制作陣の信頼感あってのもの。
そして、こうした脚本・役者の力量・魅力を最大限に映像にのせたのは、演出(監督)、美術や照明など一人一人のスタッフだ。
朝ドラは1回15分の短尺の積み重ねで物理的な量が圧倒的に多いことから、登場人物に一貫性を持たせながら成長・変化を描くのが非常に難しい。それだけに、作品の出来を大きく左右するのが脚本であることは、間違いない。
しかし、その脚本家の力量をプロデューサーや演出家、役者が信じることができるか。役者によるアイデアを脚本家や演出家が受け入れることはできるか。良い作品になることをスタッフ陣が信じて、情熱を注ぐことができるか。ドラマは、チームで作るものだけに、どれが欠けてもどこかに齟齬が生まれるはずだ。
「この世に雑草という草はない」「全ての草に名があり、役割がある」――万太郎の思いをそれぞれが理解し、一人一人のプロが自分の持ち場で力を注ぎ、他者を信じ、リスペクトし合う、そうした信頼感の積み重ねの結晶が「チームらんまん」、そして『らんまん』という作品だったのではないだろうか。
参照
※1. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1431bc4443f77b882dc82f700cd65a54b267703f
※2. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f409bfadbb09b8020cc1fb8ee9670eee24de911e
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK