『らんまん』神木隆之介の万太郎は朝ドラ史に残る主人公に 理想と先入観の呪縛からの解放

 120年前と今の相違点の具体的なものとしては、まず、森林伐採の件。現在、明治神宮外苑地区の再開発に伴う樹木の伐採計画に反対する声が多くあがっている。明治神宮外苑に限ったことでなく、あちこちで、土地開発のために木が伐採されている。また、永守が心配する日本の文化が守られないことは、国立科学博物館が資金難でクラファンを募ったことが浮かんでくる。市民による莫大な金額が集まったが、国が予算を投じず、市民の寄付で賄うことを問題視する声もあがっている。

 こんなふうに世の中が不安定になっているとき、ハチクの花が咲く。120年周期で咲くとき何かが起こるという迷信は当たってしまうのか。2020年にもハチクの花が咲いた。寿恵子が怯えるように、ちょっとこわい気もするが、そんなときこそ、明かりを灯すように楽しい未来を思い浮かべることだ。

 竹雄(志尊淳)は万太郎を、峰屋では駄目若旦那だったが、「小さい神様(植物のこと)が消えていくゆうがを見逃すより 手を差し伸べるおまんがえい」、そして、いつだって「強さと優しさは本気じゃった」と称える。朝ドラによくある、お金にルーズで生活力のない男性キャラをおもしろがることを決してせず、力の弱いものを見離さない、「強さと優しさは本気」というところに着地させたことも、理想の男性像や、お金の常識への先入観という呪縛から解放され、ほかに視点はないものかと探した結果であろう。

 社会的なルールに即してお金を稼ぐことだけが必ずしも正しさではないし、そのルールに乗れない者が全部が全部だめなのではない。独自の価値観で生きている人物を、それも主人公に据えたことは、朝ドラの白歴史のひとつとなるだろう。永守の申し出にすぐに飛びつかず、彼が帰ることを待つ、という万太郎の姿勢には感心せざるを得ない。この物語のなかでは万太郎は様々な経験や出会いによって強さと優しさを育てたのだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】 
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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