『らんまん』神木隆之介の万太郎は朝ドラ史に残る主人公に 理想と先入観の呪縛からの解放

 NHK連続テレビ小説『らんまん』第24週「ツチトリモチ」は月日が過ぎて明治36年(1903年)となった。今(2023年)からちょうど120年前の出来事は、なんだか遠い昔とは思えない、妙に身近に感じるものばかりだった。

 白髪交じりになってきた万太郎(神木隆之介)は、新たな時代に輝く恒星のような人物との出会いと、懐かしい人との再会を経験する。前者は博物学者・南方熊楠で、後者は高知で自由民権運動を行っていた早川逸馬(宮野真守)。この出会い、まさに縁(えにし)である。寿恵子の好きな『南総里見八犬伝』の八犬士たちがばらばらに分かれていながら縁によって集まるように、同じ志持つ者はどこにいてもきっと出会うものなのだ。

 南方熊楠は、昔の万太郎のように、いささか傍若無人。植物の標本を鑑定してほしいと万太郎に送りつけてくる。さらに、神社が合祀するにあたり、その土地の森林が伐採されることに反対を唱えていて、それは目立ちたいからだと批判されるが、その態度に万太郎は共感を抱く。大学の徳永(田中哲司)は国の方針に逆らうなと釘を刺すが、万太郎は国家権力になびく生き方をよしと思えない。

 そんなときに逸馬である。若き頃、自由民権運動の志によって結びついた万太郎と逸馬。

 万太郎の「雑草という名の草はない」という名言の核は、逸馬との交流で芽生え育まれ強い根を張った。万太郎が植物を民衆と重ね合わせ、誰もに等しく名前と生きる権利があり、何人(なんぴと)たりともそれを損なうことができないと確信したのは逸馬との出会いが大きい。

 運動を警察に阻まれ捕まった逸馬は拷問で命を落としたかと思いきや生きていて、寿恵子の店・山桃に現れる。土佐料理や店に植えた山桃が逸馬を呼び寄せた。彼は、万太郎に資産家・永守徹(中川大志)を紹介し、永守が莫大な資産を万太郎の植物図鑑活動に投じると申し出るのだ。だが、志を持ち続ければいいことがあるという寓話には、ならない。

 日清戦争のあとは日露戦争があり、日本は勝って海外に勢力を拡大していた。その軍需景気で、渋谷にある寿恵子の店は繁盛している。そんな時代のなかで永守は陸軍に入隊することになっていて、お金を出して兵役を免除してもらうことよりも、日本の文化を守るために使おうと考えていた。万太郎はその申し出を、すぐさま受けるのではなく、永守が兵役を終えて帰って来るまで準備をして待つというのだ。

 戦争に行くなとか、死ぬな、とか直接的には言葉にはせず、帰ってきたときの希望を語るのは、第23週の寿恵子の「妄想」と同種の発想であろう。容易に解決しない悲しみや悩みごとがあったとき、未来に楽しみごとを見出すことーーそれが、令和の今にも必要な気がする。

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