『どうする家康』松本潤の威厳が次のステージに ムロツヨシと対照的な“静”の芝居

 『どうする家康』(NHK総合)第31回「史上最大の決戦」。お市(北川景子)の死をきっかけに、家康(松本潤)は秀吉(ムロツヨシ)を倒す意志を固める。着々と天下人への道を進み、勢いに乗る秀吉は信長の次男・信雄(浜野謙太)を安土城から追放する。信雄から助けを求められた家康は、10万を超える秀吉軍と相まみえることとなる。

 物語序盤、ムロの演技からは秀吉の得体の知れないさまが感じられた。戦勝祝いの挨拶へと足を運んだ数正(松重豊)は、祝いの品「初花肩衝」を受け取った秀吉の様子を家康にこう伝える。

「何もかも芝居のようであり……いや、何もかも赤子のように心のままにも思える」

 「初花肩衝」を手に取り、「もったいねえ、そんな……」と驚く顔は、猿芝居にしては実直すぎる反応だった。秀吉の泣く姿といえば、信長(岡田准一)から「殿(しんがり)」を命じられた時が印象に残っている。あの時は散々嘆き悲しんだ後に表情を一転させていたものの、「もう一度おっかあと抱き合いっこしたかったあ」と喚き散らす姿は本心のように感じられた。

 ムロの表情や台詞の言い回しが目まぐるしく変化することで捉えどころのなさが際立つが、その一方で、どこか真実味が感じられるのが末恐ろしい。時に、意図的に猿芝居を打っていることもあるが、彼が欲のままに見せる喜怒哀楽は全て本心と言えよう。

 ムロ演じる秀吉の恐ろしさは裏表があることではない。欲に果てがないことだ。何もかもを欲しがり、持てる力の全てを使って手に入れようとする。秀吉は目の前の数正に向かって「徳川殿が羨ましい……」「欲しいのう」「わしもそなたのような家臣が欲しいのう」と呟いていた。数正をじっと捉える秀吉のまなざしは、まるで欲しいものに唾を付けるようだった。「手に入れたい」という気持ちに一切嘘をつかないそのまっすぐさは狂気じみて見える。

 秀吉の底知れぬ恐ろしさが目を引く一方で、信長亡き後、威厳が増していく家康の姿も印象的だった。家康の威厳は、信長のそれと勝るとも劣らない。

 家臣たちと向き合う家康に、かつて家臣たちを前に狼狽えるばかりだった“か弱きプリンス”の面影はない。家康はどっしり構え、秀吉への祝いの品に「初花肩衝」を持たせた意図を言葉少なに理解させる。井伊直政(板垣李光人)を諭す佇まいには貫禄があった。

 信雄に対しても同様だ。信長と結んだ盟約は今後も変わらないと伝えるが、感情のままに行動することは決してない。今の秀吉と戦うのは並大抵のことではないと話す家康は「刺し違える覚悟おありでございましょうや」と信雄に問いかけた。戦う覚悟を問う家康の言葉の重みや立ち居振る舞いは、信雄を演じる浜野のたじろぐ演技からもうかがえるほど勇ましい。

関連記事