『らんまん』浜辺美波が友のために勇気を見せる 万太郎を導く新たな出会いも

「あの人たちはね、本当のことなんて何一つ知らないのよ。知らないのに人に石を投げつけてるの」

 『らんまん』(NHK総合)第94話では、寿恵子(浜辺美波)の気丈さがひときわ印象に残った。新聞の連載小説を耳にした寿恵子は、いても立ってもいられず、田邊(要潤)の家へ急行する。怒り狂った群衆が田邊家を取り囲み、騒然とする中、千歳を背負った寿恵子は田邊家に駆け込んだ。おびえる聡子(中田青渚)と田邊の娘たちに言ったのが冒頭の台詞だ。

 世間をにぎわせる新聞小説は大学教授の田口が主人公。田口は女学校の校長も兼任しており、女生徒の里江と恋仲になる展開が物議をかもした。劇中の田口のモデルは田邊とされるが、同様の出来事は実際にあった。それが小説『濁世』に関するスキャンダルだ。田邊のモデルで東京大学植物学教室の初代教授である矢田部良吉は、東京高等女学校の校長でもあった。須藤南翠の『濁世』には矢田部と思しき主人公・刑部が登場。理学博士の刑部は東京貴婦人学校の校長で、女学生と親密な関係になる。

 『らんまん』の新聞小説がどの程度真実を反映しているかは不明だが、大衆の興味関心に合わせ、想像力を膨らませて、あることないことを書き立てた内容と推察される。ちなみに明治20年前後は近代小説の黎明期で、坪内逍遥が写実主義をとなえ、口語体で物語を書く言文一致運動が勃興した時期である。日本文学史の一大ムーブメントとなる自然主義はもう少し先で、戯作と小説、ゴシップも未分化の状態にあった。『らんまん』の新聞小説もこうした流れに位置づけられる。

 話を元に戻すと、人の世の営みは今も変わらないと痛感する一方で、寿恵子と聡子にも色あせない友情があった。もとより小説で書かれた内容は、事実を脚色し、書き手の主観を加えたもので、真実と異なる要素が含まれている。真偽がどうあれ、寿恵子は聡子という人間を直接知っていて、友達が困っていたら何を置いても助けたかったし、実際にそうしたという事実が重要である。

 聡子がどれほど寿恵子を心強く思ったことか。対する田邊は、寿恵子に心ない言葉を浴びせる。寿恵子に下心があるかのように決めつけ、万太郎(神木隆之介)への対抗心をむき出しにする。追放した万太郎に追い討ちをかけるように「何をしても無駄」と寿恵子に言い放った。田邊は万太郎に頭を下げさせたくて仕方ない。人間的なところもある田邊は、万太郎に対して支配欲をむき出しにする。寿恵子は夫の潔白を訴え、万太郎に執着しているのは田邊だと指摘した。田邊は表向き鷹揚な態度を取りながら、嫌味たっぷりに万太郎と別れたほうがいいと忠告した。

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