『らんまん』怒りが滲む落合モトキが伝えた真実 田邊と万太郎夫妻が対照的に描かれる

 『らんまん』(NHK総合)第14週「ホウライシダ」第70話では、寿恵子(浜辺美波)が万太郎(神木隆之介)の手に、聡子(中田青渚)が田邊教授(要潤)の肩に触れる、それぞれの夫妻が対照的に描かれるシーンがある。

 この回で初登場した伊藤孝光(落合モトキ)は、伝説の本草学者・伊藤圭介の孫。里中(いとうせいこう)を通じて、万太郎は博物館で孝光と出会うが、「東京大学」の名を聞くや否や、孝光は表情を曇らせる。しまいには、田邊を「泥棒教授」、マキシモヴィッチ博士を「世界一のまぬけ」呼ばわりする始末。しかし、そこには、叔父が採集・分類し、名付けた「戸隠草」の研究を田邊に横取りされた孝光、ひいては伊藤家の悔しい思い、怒りが滲んでいた。

 「内心はきっと気を揉んでいる」という里中の一言から、場面は雨の降りしきる田邊邸宅。帰りを待っていた聡子は、田邊に傘を差し出し、その流れから「どうしてシダがお好きなのですか?」と尋ねる。聡子は歯朶紋の帯を結びながらも、田邊がシダを好きな理由を聞けずにいた。シダは花も咲かせないし、種も作らない。太古の昔、胞子だけで増えるシダ植物は、陸の植物の覇者だった。地上の植物の始祖にして永遠――きっと、田邊はシダを自分と重ね、羨望の眼差しを向けている。東京大学植物学教室の初代教授としてだけでなく、政府にも結びつきを持った“覇者”でありながら、その姿にはどこか孤独を感じさせる寂しさがある。万太郎という“本物”の登場によって、田邊も心の奥ではそのことを認めざるを得ないのだ。「なっ? 分からないだろう?」と諦念に至る田邊に、聡子は彼の肩にそっと手を乗せる。それだけでも聡子にとって、夫妻にとっては幾許か距離が近づけた瞬間だったに違いない。

 一方の万太郎は、学者として認めてもらえる道として、里中から植物学に携わる誰もが認める本を出すことを助言されていた。知見、発見を存分に披露する本、つまりは図鑑の発刊。アメリカへ留学に行った佑一郎(中村蒼)の存在もあり、万太郎の心は研究に再燃していく。だが、そうすることで寿恵子の心労は大きくなっていくばかり。竹雄(志尊淳)からの「申し送りその3」として、寿恵子は万太郎に夜の研究を控えるように忠告する。それは万太郎の身体を気遣ってのこと。何よりも健康が一番。互いに自分よりも長生きをしてほしい。万太郎も思いは一緒だった。壁の穴越しに万太郎の目をじっと見つめる寿恵子は、「おやすみなさい」と万太郎の手に触れる。「どんなに忙しゅうても振り返るき」と寿恵子に約束する万太郎と、「分からないだろう?」と聡子を突き放す田邊の違いが際立っている場面だ。

 翌朝、目を覚ました寿恵子のすぐ横にあったのは万太郎の顔。草花のように寿恵子を観察する、距離感のバグっているユニークな万太郎であった。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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