若さを描く『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』 動きまくるアニメの快感

 ニューヨークのブルックリンでスパイダーマンをやっている少年マイルス・モラレスは、学校にヒーロー活動に大忙しだった。ヒーローとして悪漢たちと戦いながら、高校生として進路問題と悪戦苦闘。ただでさえ思春期・反抗期のシーズンなのに、ヒーロー活動というドでかい隠し事があるせいで、両親との関係も日に日にギクシャクしていく。そんなヒーローの孤独を理解してくれる者は周りにはいない。前作『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)で知り合い、そして別れを告げた並行世界のスパイダーマンことグウェンに対する恋心を抱きつつ、今日も悶々と過ごしていたが……そのグウェンが目の前に現れた。どうも並行世界のスパイダーマンが集結する場所があるという。

 自分が1人ではなかったと喜ぶマイルスだったが、しかしスパイダーマンには非情の掟があった。それは「大切な人を亡くす」という「悲劇」を経験しなければ「ヒーロー」になれない、というものだ。しかも、この「悲劇」を避けたなら、そのせいで世界が滅ぶ可能性もあるという。それはマイルスも例外ではなく、彼にもまた「父の死」という悲劇が迫っていた。しかしマイルスはその掟にNOを突きつける。悲劇が起きると分かっていながら、見て見ぬふりなどできないと行動を起こす。スパイダーマンたちは世界崩壊を防ぐべくマイルスに襲いかかる……。かくして並行世界の全スパイダーマンvsマイルスの壮絶な戦いが始まった。

 百聞は一見に如かずと言うが、本作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年)は、まさにそういう映画だ。「ただごとではない」と察するにあまりある、ゴージャスな映像体験から映画は幕を開け、その後も勢いはまったく失速せず、それどころかクライマックスまで加速してゆく。元々スパイダーマンは糸を使ってジャンプしまくる立体的なアクションが主で、おまけに戦闘中も喋りまくるヒーローだ。前作でも分かっていたようにアニメとの相性はバッチリなわけだが、今回は物量も大幅アップ。冒頭のヴァルチャー(鳥みたいな悪役)戦で、すでに普通の映画のクライマックス並みのアクションが拝める。高速かつ複雑なアクションは、ただただ気持ちがいい。脳ミソの「気持ちがいい」と感じる部分に電極をブっ刺され、話が進むにつれて徐々に流れる電流が強くなっているような感覚だ。正直、目で完全に追い切れないほどの情報量だが、とにかく動きまくるアニメが好きな人は、本作を観て損はしないだろう。

 そんなド派手なアクションに溢れた一方で、ドラマ部分も非常に丁寧だ。たとえ悲劇的なものでも運命は受け入れるべきなのか? 「世界」と「大切な人」を天秤にかけ、どちらを選ぶか? こういったド定番のドラマに堂々と挑んでいく。根底にあるのは人の生死を巡るシリアスな話だが、もちろんそこはスパイダーマンであるから、ユーモアも忘れない。今回も個性的なスパイダーマンが多々登場するが、特に儲け役なのはパンクロッカーのスパイダーマンことスパイダーパンクだろう。このシリーズは、質感(タッチ)が違うスパイダーマンが同じ画面に収まっているところが魅力の一つだ。今回もレゴや実写、劇画調やいろんな質感のアニメ風スパイダーマンが出てくるが、このスパイダーパンクはパンクバンドのアルバムアートから飛び出てきたようなデザインだ。出て来るだけで映像的に面白いうえに、行動もパンクなので、数多のスパイダーマンの中でも飛びぬけて目立っていた。彼の存在は、まさしく一服の清涼剤と呼ぶに相応しい。

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