『Rodeo ロデオ』監督が語る、アメリカ映画からの影響と#MeToo以降のフランス映画界

 2022年の第75回カンヌ国際映画祭ある視点部門にて、この作品のために特別に設けられたクー・ド・クール・デュ・ジュリー賞(“審査員の心を射抜いた”という意味)を受賞したフランス映画『Rodeo ロデオ』。監督を務めたのは、本作が長編デビュー作となったローラ・キヴォロン監督だ。自らノンバイナリーを公言するキヴォロン監督に、本作を手がけることになった背景や、アメリカ映画からの影響、そして現在のフランス映画界について話を聞いた。

XXXテンタシオンの「Look at Me!」が意味するもの

ーー初監督作にして非常にパワフルでチャレンジングな題材に挑まれていますが、まずは『Rodeo ロデオ』を監督するに至った背景について教えてください。

ローラ・キヴォロン(以下、キヴォロン):この映画で描いている、ヘルメットを装着せず全速力で走り、アクロバティックな技を繰り出す“クロスビトゥーム”はパリの郊外で生まれたムーブメントなのですが、私の生まれがまさにそのパリ郊外だったんです。小さい頃、住んでいた家の窓から、公園でモトクロスをやっている若者たちの姿をよく見ていました。幼少期にそういう体験がまずあったのですが、映画学校に通い始めて4年目のときに、ある記事を読んだんです。それがバイク好きの人たちについての記事で、私が子供の頃に見ていた人たちのことでした。それで、実際にその人たちに会いに行くことにしたんですが、練習場には50人くらいのバイカーが集まっていて、私は一瞬で彼らの世界に恋に落ちました。

ーーどういったところに惹かれたのでしょうか?

キヴォロン:とても美しくて、ポエジーな世界だったんです。バイクのアクロバティックな動きや煙はもちろん、バイクも非常にカラフルで、彼らが仲間内で話す詩的な言葉遣いにも惹かれました。例えば、バイクが加速するときの音を、彼らは“シンフォニー”と呼んでいました。通常、クラシック音楽で使うシンフォニーという言葉を、彼らは自分たちの世界を表現するために使っていて、非常にポエティカルに感じました。それと、彼らが集まることによって、ある種の共同体、血の繋がりのない家族を作っている印象を受けました。それは彼らの友情によって成り立っていて、そこにもすごく惹かれるものがありました。私自身も2015年に彼らと仲良くなり、“家族”の一員となりました。私自身はクロスビトゥームをやるわけではないですが、彼らの写真を撮ったりクリップビデオを撮ったりする中で、彼らの短編映画を作り、そして今回の『Rodeo ロデオ』の制作に繋がっていきました。私にとってクロスビトゥームは“パッション”。情熱と友情が紡ぐものだと思っています。

ーー今回の映画でクロスビトゥームの存在を初めて知ったのですが、フランスでは一般的なものなのでしょうか。

キヴォロン:パリなど大都市の郊外に暮らしている若者だったら誰でも知っているような、一種のムーブメントになっています。サッカーよりもクロスビトゥームをやりたいという子がいるくらい、非常に人気が高いですね。もともとは80年代の終わりごろから90年代、2000年代くらいにかけてアメリカで始まった動きで、フランスにはラッパーのDMXのMVを通じて知られるようになってきました。とても危険で、違法なことでもあるので、車が入ってこれないような工業地区の廃れた場所でよくやられています。

ーーDMXにルーツがあったんですね。ラッパーで言うと、XXXテンタシオン(XXXTentacion)の「Look at Me!」が劇中で効果的に使われていたのも印象的でした。

キヴォロン:私はシナリオを書くときに、自分で作ったプレイリストの音楽をかけているんですが、ちょうどこの『Rodeo ロデオ』のシナリオを書いていたときに聞いていたのがXXXテンタシオンの曲でした。「Look at Me!」は、非常に暴力的な歌詞で、しかも女性蔑視的な内容です。ただ、この映画の主人公であるジュリアは、男性と女性の間を行き来するような存在で、自分の居場所を探しながら、その存在を認めてほしいと願っている。なので、夜に火を囲みながらジュリアが踊るシーンで「Look at Me!」を使うことによって、楽曲が持っている暴力的な側面を変化させ、それをジュリアが我が物にしてしまうことで生まれる、火花のような美しさを際立たせる効果を狙いました。XXXテンタシオンの「Look at Me!」は、この作品におけるバイオレンスの土台であり、ジュリアという人物が持つ、火山が噴火するような激しさを表すにもピッタリな楽曲だったと思います。私にとって、映画の中で使う音楽は、無意識の力であったり、内なる声というものを非常に具体的な形で表現してくれるもの。映画における音楽にはそういう役割があると思っています。

関連記事