マイケル・J・フォックスから学ぶ“生き方”のヒント 観るべきドキュメンタリー『STILL』
同時に、『ティーン・ウルフ』(1985年)、『摩天楼はバラ色に』(1987年)、『バラ色の選択』(1993年)などなど、過去作の映像の数々から、マイケルの若き日々の美しさには圧倒されるものがあったことを再認識させられる。子どもの頃から背が伸びず、顔も童顔だったため、地元の学校ではいじめっ子のターゲットになっていたという、まさにマーティ・マクフライのパーソナリティを想起させられる彼が、逃げ場所として入った演劇部で、演技という芸術に出会い、実年齢よりも若い役を巧みに演じられたという“強み”にも納得感が漂う。
タフガイや背の高いスターの多い環境で、かつての男性的な魅力にはない部分で認められたマイケルは、当時における新時代の象徴でもあったといえよう。現在は60代になって病気の進行と闘っている彼だが、そのチャーミングさや持ち前のユーモアは健在で、取材にも機知に富んだ返答をしているのが嬉しい。
病気の公表後には精神的重圧から解放され、パーキンソン病の役を演じたり、手に持っているコーラのボトルが病気の震えでシェイクされて、蓋を開けると中身が飛び出してしまうというギャグを作品内で披露するような、その後の活躍や、慈善活動への参加が語られるなど、大スターとしての地位を失ってからの人生も充実していることが語られていく。現在の彼がさまざまな活動をしたり、人生を楽しむ姿を見せることは、病気に対する人々のイメージを変えることにも繋がるはずなのだ。マイケルは、いまも新しい時代を切り拓く存在なのである。
人生を大きく変える幸運と不幸が、人生の若い時期にやってきたマイケルの境遇は数奇なものではあるが、よく考えてみればそれは、多くの人にとって“ひとごと”ではない。誰もが予想外のことが起き得るのが人生なのだ。われわれもまた、人生のなかでさまざまな浮き沈みを経験する。マイケルの若い時代のキャリアは、そんな一つの縮図となっていたともいえるのではないか。
われわれもマイケルと同じように年を重ねて、以前のような活躍ができなくなっていくことは避けられない。しかし、人生はそれでもまだ続いていく。それなら、その範囲で精一杯やれることをやって充実した日々を送っていけばいい。マイケルが短い時期に辿った喜びや悲しみ、苦悩や決断などから得た考え方や発言の中身は、そういう意味では誰にとっても有益なものになり得る。そんな彼の姿を正面から映し出した本作『STILL:マイケル・J・フォックス ストーリー』は、多くの人にとって観る意義のあるドキュメンタリー作品になっているといえるだろう。
■配信情報
『STILL:マイケル・J・フォックス ストーリー』
Apple TV+にて配信中
出演:マイケル・J・フォックス
監督:デイヴィス・グッゲンハイム
画像提供:Apple TV+