朝ドラ『まんぷく』でヒロイン・福子（安藤サクラ）の母である鈴を演じた時もそう。“ぶしむす”なんてあだ名がつけられるほどに、“武士の娘”であることにプライドを持つ鈴はわがままで子供みたいなところがあった。福子がのちに世界初の即席麺を開発する萬平（長谷川博己）と結婚すると言い出した時も、安定した仕事とは言えないからと猛反対。他にも娘たちの大きな決断にことごとく口を挟み、自分の思い通りいかなければふてくされる鈴は今の時代ならば“毒親”と呼ばれる存在かもしれない。それでも、最終的に鈴が視聴者に愛されるキャラクターとなったのは、その言動の裏にちゃんと親としての愛情が感じられたから。コミカルな役を演じようと、悪役めいたキャラクターを演じようと、いついかなる時でも真剣味やその人なりの正義が説明台詞なしに伝わってくる。それこそが松坂の真骨頂ではないだろうか。

　『らんまん』のタキも考えなしに万太郎や綾（佐久間由衣）のやりたいことに反対しているわけじゃない。コレラで夫や息子を亡くし、酒蔵に女立ち入るべからずな男社会の中で必死にできうる限りを尽くして本家の威厳を保ってきたタキ。槙野家が佐川の領主・深尾家の御用掛を代々務めてきたという歴史もあって、彼女は商家の人間でありながらそれこそ武士のような面構えだ。志半ばでこの世を去った夫や息子、その妻であるヒサ（広末涼子）に代わり、万太郎を立派な当主に育て上げ、峰屋の看板と従業員を守らなければならない。そんな並々ならぬ覚悟がタキの全身から常に放たれている。

　だから、本人たちの気持ちを無視し、峰屋のために万太郎と綾に夫婦になれと命令を下した時でさえ、タキを責める気にはなれなかった。なぜならば、それが彼女の“務め”だから。その“務め”が、たまたま万太郎の持って生まれた“務め”と相容れなかっただけで誰が悪いわけでもない切なさがある。男と女、若者と高齢者、動物と植物などさまざまな違いを超え、生きとし生けるものの多様性を肯定する本作。どうか、万太郎とタキがどちらも己の人生に虚しさを覚えることのない結論が導き出されることを願わずにいられない。

参照

※ https://realsound.jp/movie/2022/11/post-1172877.html

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回（全26週）】
総合：午前8:00～8:15、（再放送）12:45～13:00
BSプレミアム・BS4K：7:30～7:45、（再放送）11:00 ～11:15
出演：神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作：長田育恵
語り：宮﨑あおい
音楽：阿部海太郎
主題歌：あいみょん
制作統括：松川博敬
プロデューサー：板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出：渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供＝NHK