『舞いあがれ!』には“理想の日本”が詰まっていた 着地点が明示されていたタイトルバック

 最強の「梅津岩倉」ファミリーのもとに、たくさんの人たちが吸い寄せられてくる。東大阪の町工場ネットワーク、大学のなにわバードマンのOBたち、五島の人たち……と舞がこれまで出会った人たちの力を集めて、空飛ぶクルマを作り、みんなの思いを乗せた代表者として空を飛ぶ。2027年、舞と「かささぎ号」の晴れ舞台を航空学校の同期たちもそろって見守る(なぜか東大阪から)。舞の人生に関係した人たちがほぼ全員が集まってきて、舞が飛ぶことを応援する様子は、こんなに何もかもが有機的に結びつくのはいくらなんでも都合が良すぎやしないかという気もしないではない。だが、これもまた、たくさんの人の思いを大事にし、誰ひとり取りこぼさない理想の社会の比喩であると考えればいい。

 飛行機は社会であり、パイロットはリーダー。『舞いあがれ!』とは、いろいろあって、おつかれ気味の日本という飛行機が、翼を休めながら、再び息を吹き返し飛ぶ日を夢に見た物語なのである。

 かくもひじょうにコンセプトの明確な作品であったが、モデルのいないオリジナルドラマであることから誤解を招くこともあったようだ。初回で舞がパイロットとして登場(幼い舞(浅田芭路)の夢)したため、主人公がパイロットになるものと思い込んだ視聴者もいた。

 中盤まで、人力飛行機に乗り、航空学校で実際に飛行機に乗り、と着々とパイロットらしく生きていた舞。それがリーマンショックと父の死によって人生の方向転換を余儀なくされるという流れは、あらかじめ飛行訓練で天候の変化によって着陸地を変更することになるエピソードによって予言されていた。

 用意周到に脚本は書かれているのだが、着陸地を実家の町工場を継ぐことに変更し、パイロットとはまったく関係のない展開になると(ほんとうは関係はなくはないのだが)、視聴者は戸惑った。いや、やりたいことはわかっていても、なんとなくすっきりしない気持ちになってしまったのだと思う。お茶だと思って無意識に飲んだらオレンジジュースでびっくりすることがあるように、人間は先入観に凝り固まると柔軟に切り替えができなくなる。優秀なはずの柏木(目黒蓮)が空で迷子になったように、視聴者はすっかり迷子になってしまった。本来、迷子にならないように、主人公にモデルがいて、その人物の人生をあらかじめ予習してドラマに臨めたり、初回の冒頭で、未来の主人公の姿を先に出して、ここへ行き着くのだという目的地を示したりしてきたのが朝ドラだった。が、今回は初回でミスリードを招いてしまった。とはいえ、実はタイトルバックですべてを明かしていたのだが……。

 紙飛行機がへこたれながら空を飛び、変形して、飛行機となって五島の島と島を飛ぶ(灯台までちゃんとある)。最終回でわかった。わたしたちは毎日、物語の全貌を見ていたのだ。それは、形を変えても思い続けたことはいつかわたしたちの手元に届く。「梅津岩倉」の表札のように。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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