『ダンジョンズ&ドラゴンズ』最高のコメディ映画として大成功 クリーチャーの造形も秀逸

 アメコミ原作のスーパーヒーロー映画がすっかりメインストリームとなり、続く勢力としてTVゲーム原作の大型企画が次々に進行している現在のハリウッド。「そんな時代に、よりにもよってどうして今さらボードゲーム原作の映画を?」というのが、まずはこの『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』の企画を最初に耳にした時の偽らざる印象だったーーと書くと、おそらく「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のファンから「『ダンジョンズ&ドラゴンズ』はボードゲームじゃない。ジャンルでいうとテーブルトークRPG、現在のいわゆるRPGの原点と位置付けられている偉大なゲームだ」と訂正が入るだろう。しかし、きっと世の中のマジョリティは「そもそもテーブルトークRPGって何?」の側にあるはず。そして、ハリウッド映画は基本的に世の中のマジョリティに向けて作られるものだ。

 「ダンジョンズ&ドラゴンズ」と映像作品の関わりで言うなら、最もよく知られているのはスティーヴン・スピルバーグ監督による歴史的ヒット作『E.T.』(1982年)の冒頭で、少年たちが夢中になってプレイしているシーンだ。「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の最初の版が発売されたのは1974年だから、当時は大人の世代にまで浸透する前、アメリカの子供たちやティーンにとっての「自分たちのカルチャー」として画面に登場したのだろう。そのシーンにオマージュを捧げたのが、1983年のアメリカの田舎町を舞台にしたNetflixの『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン1(2016年)。同じく冒頭のシーンで少年たちは「ダンジョンズ&ドラゴンズ」に興じていて、その直後の自転車のシーンまで『E.T.』へのオマージュという念の入れようだった。もっとも、『ストレンジャー・シングス』は単に「ダンジョンズ&ドラゴンズ」を小道具として画面に出したのではなく、物語そのものがその強い影響下にあることがのちの展開で明らかになっていく。現在のところ最新シーズンのシーズン4(2022年)では、「ヘルファイア・クラブ」を名乗るハイスクールの「ダンジョンズ&ドラゴンズ」愛好会が大活躍するなど、ますます重要なモチーフになっている。

 『ストレンジャー・シングス』のような成功例もある一方で、2000年から2012年にかけて3部作として、あまり話題にならなかったとはいえ(3作目にいたっては日本含む各国でDVDスルーに)一度映画化されている「ダンジョンズ&ドラゴンズ」を、2023年に映画化することに果たして勝算はあるのか?

 今回の『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』がそこで出した答えは「問答無用に面白いコメディ映画にしてしまえ」ということだった。そして、その戦略は驚くべきことに成功している。

 監督、脚本、エグゼクティブ・プロデューサーを務めているのはジョナサン・ゴールドスタインとジョン・フランシス・デイリーのコンビ。コメディ映画ファンにはセス・ローゲン監督『モンスター上司』(2011年)や3DCGアニメーション作品『くもりときどきミートボール2 フード・アニマル誕生の秘密』(2013年)の脚本家として知られている名コンビだが、『お!バカんす家族』(2015年)で監督デビューを飾って以降は辛酸を舐めてきたと言っていいだろう。ソニーとマーベル・スタジオ(ディズニー)の複雑な綱の引き合いの中で、監督として最終候補に残っていたにもかかわらず弾き出されてしまった『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)では原案と脚本の共同クレジットを残すのみ。一度は監督決定の報が公式アナウンスされながらも、主演のエズラ・ミラーが「ノリが軽すぎる」という理由で難色を示したことで降板させられてしまった『ザ・フラッシュ』(2023年)でも原案のクレジットのみ。今回の『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』は、彼らにとっていわば名誉挽回、失地回復の「絶対に負けられない戦い」だった。

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