『大奥』山本耕史が仲里依紗に“かつての自分”を重ねる 溢れ出した綱吉の積年の思い

 過去の殺生もそうだが、桂昌院の為すことは全て敬愛する有功のためである。春日局(斉藤由貴)が乱世を終わらせてくれた徳川家康の血を存続させようとしたように、桂昌院は物乞いとして暮らしていた自分を救ってくれた有功の血を存続させるためなら手段は選ばない。もちろん、綱吉は家光との子であるが、桂昌院にとって綱吉は自分との子ならば「かわいがれる」と言ってくれた有功の娘でもあるのだ。

 たしかに、有功の思いはその身に根付いている。殺伐とした大奥にひと時の安らぎを与えるため、有功が取り入れた学問を愛する綱吉。目を悪くしては器量=外見を損ねると桂昌院に良い顔をされずとも、綱吉は学びを止めることはなかった。それは誰かに消費されることのない自分と唯一出会える場であったからだろう。

 しかしながら、松姫の死後、世継ぎを生むために再び多くの男性と褥をともにするようになった綱吉は学問の時間でさえも満足に取ることができない。これを定めとする覚悟は次第に諦めに変わり、どんどん綱吉の心を蝕んでいく。ついには、同時に相手をした二人の男たちに自分の目の前で愛し合うことを強要する綱吉。その姿が男たちに女装で踊らせた家光の姿と重なる。

 NHKで初めてインティマシー・コーディネーターを導入し、俳優たちの身体的・精神的なサポートを講じた上でいわゆる濡れ場を意図的に作り出した第6話。それは右衛門佐らが聞き耳をたてる中で毎夜男たちと褥をともにしなければならない綱吉の心の傷を容赦なく突きつける。右衛門佐に行動を咎められ、「そうか、これは辱めであったか」とあえて自分の傷を抉る綱吉。激昂の後に力なく子を失った母親の哀しみを滲ませ、もはや一言で言い表すことなど不可能な積年の思いが溶け出して瞳を濡らした。

 有功や家光が生きた前時代の哀しみや願いが、良くも悪くもこの時代に受け継がれている。

■放送情報
ドラマ10『大奥』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
出演:福士蒼汰、堀田真由、斉藤由貴、仲里依紗、山本耕史、竜雷太、中島裕翔、冨永愛、風間俊介、貫地谷しほり、片岡愛之助ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹
主題歌:幾田りら
音楽:KOHTA YAMAMOTO
プロデューサー:舩田遼介、松田恭典
演出:大原拓、田島彰洋、川野秀昭
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社

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