『舞いあがれ!』の後半戦はどこまで“時代”を描くか リーダー論がテーマのひとつに
現実ではリーマンショックのあとに東日本大震災がありコロナ禍がありウクライナ戦争があり未曾有の円安になりと、大抵の人の人生の波は下降の一途である。そんなときこそ、“舞いあがれ!”という希望がほしいし、頼れるリーダーの出現が待ち望まれる。そういう意味では『舞いあがれ!』は極めていまの日本を捉えた朝ドラなのである。第13週の終わりは、浩太が「太陽光発電」の部品に着手すると言っている。これまたひじょうにエコを追求する現代らしい題材である。舞たちがピンチをどうチャンスに変えて生きていくのか、後半戦、どこまで時代を描くのだろうか気になる。
さて。リーマンショックに岩倉家の長男・悠人(横山裕)が投資家であることなど、町工場の奮闘等々、舞台装置が他局の日曜の夜のドラマ群を彷彿とさせる。朝のホームドラマにしては骨太な枠組みだが、そこに桑原亮子の詩情あふれるタッチが加わって、暗い社会問題が掲載された新聞の片隅の、ほっこりした読者投稿のような風情を作り出す。第12週の少年が星に見立てた南天の紅い実が、暮れの商店街の花屋に並んでいる。難を転じて福と成すことを願って正月飾りにするのである。向かい風を受けて飛ぶばらもん凧が子供のお守りにしていた五島の人々も然り、日本人は昔からこんなふうにこじつけのようなことをしながら幸福を祈ってきた。
とここで思い出すのが、ピューリッツァー賞受賞作家ソーントン・ワイルダーの『ロング・クリスマス・ディナー』という戯曲である。1840年から1930年くらいまでの90年間をひとつの家の食卓の風景のみで描いた短い一幕もので、その頃あった戦争や大統領の交代よりも家庭生活のみに着目している。演劇の世界では大変有名なテキストで(もはや古典といってもいいかもしれない)、おそらく『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)を書いた藤本有紀は演劇にも関わってきた作家であるから、クリスマスをキーにしたことや三世代が同じようなことを繰り返す趣向はこの作品が念頭にあったのではないかと推測する。
また、『ちむどんどん』(2022年度前期)の羽原大介も然りである(沖縄の社会問題をほとんど描かなかったこと、戦争と恋愛を重ねたことなどが物議を醸した)。朝ドラとは多分にこの日常生活への眼差しが強く感じられるドラマなのである。広い社会全体よりもミニマムな家庭の営みを描く物語は、そこはかとなく登場人物の取り巻く社会のあれやこれやを思い浮かばせるものでもある。『舞いあがれ!』からは社会と日常、叙事と叙情のバランスをうまくとろうとする試行錯誤を感じている。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK