『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』はシリーズ未見の人にこそ薦めたい
圧倒的なバトルシーンと「解釈の幅」があるストーリー
異世界ファンタジーアニメのあるあるとして「国交や時代背景が複雑で、理解が難しい」という難点がある。その点で言えば『転スラ』は全く知識がなく観ても、キャラクターや物語の要点はリムルがわかりやすく語ってくれる。細かな設定はあるものの、リムルを中心に物語は進展していくので、基本的なストーリーに置いていかれる心配は無用だろう。もちろん、『転スラ』にハマった際には細かい設定にも注目してストーリーを追っていくと新たな発見もあるので、是非こちらもオススメしたい。
同時に、劇場版でリムルの部下であるベニマルたちの兄貴分だったヒイロとの再会のように、オリジナルストーリーでありながらパラレルワールドにはならず、しっかりと原作の時系列に沿いながら、その上で国の違いや時系列のズレを絡めた既存のファンを楽しませる工夫も魅力的だ。ストーリー原案として、原作者の伏瀬が参加している強みを実感できた箇所の一つであった。過去の時系列で起こっていた出来事を共有できるため、誰もが『転スラ』の物語に入り込みやすくなっていたように感じる。
さらに今作は物語の焦点を劇場版で新たに登場するキャラクターと国に当てていることもあり、TVシリーズを観ていなくてもここから『転スラ』ワールドに入り込むことができる構造になっているところも魅力である。加えて言うならば、オリジナルでありながらも『転スラ』の世界観や魅力は際限なく発揮されており、『転スラ』の導入としてオススメできる一作になっている。
そして『転スラ』の魅力と言えば迫力のアクションシーンは絶対に外せない。TVシリーズではリムルの多彩で圧倒的なスキルを駆使した圧巻のバトルシーンをはじめ、激しい剣戟やド派手な魔法など、観ていて爽快感あふれるシーンが満載だった。
今回の劇場版はそのアクションシーンがさらに進化していると言っても過言ではない。特にヒイロとベニマルの大迫力の戦闘シーンは、音と光を最大限に浴びながらスクリーンで見届ける価値が存分にある。飛び交う剣戟、スリリングな爆発……とにかく一瞬たりとも目が離せなくなるようなシーンが目白押しのインパクトのある仕上がりが印象的だった。その他にも、大画面のスクリーンと劇場の整った音響設備で観るべき大迫力のシーンが満載な本作。まだ『劇場版 転スラ』を体験していない人は是非、劇場で体験してみてほしい。
また、本作の大きな特徴として「どんな人でも楽しむことができる」点を強調したい。筆者は個人的な好みとしてラブロマンスジャンルの映画を嗜む機会が多いのだが、ジャンルで言えば全く異なる劇場版『転スラ』を十分に楽しむことができた。
それは本作が良い意味で「解釈の幅」があるストーリーであり、アニメ作品やアクションバトルに触れたことのない方でもさまざまな視点から作品を楽しめる工夫がなされている証明でもあるだろう。『転スラ』は登場キャラクターの数が多い分、キャラクター同士の多様な関係性と共感できるポイントがストーリーにふんだんに盛り込まれている。例えば、劇場版の鍵を握るヒイロにフォーカスを当てたとしても、観客によってヒイロとトワの関係性が心に響く人がいれば、ヒイロとベニマルの関係性に感動を覚える人もいるだろう。
観客によって「刺さる」ポイントは違えど、子どもから大人まで、性別を縛らずに楽しめる。それが劇場版『転スラ』の最大の強みなのだ。
このように『転スラ』の魅力を挙げ始めればキリがない。繰り返しにはなるが、今回の劇場版はこれから『転スラ』を視聴するファンにとっての“入門編”として強くオススメしたい。今あげた魅力が手にとるように伝わるだろう。もちろん“紅蓮の絆編”ということで大鬼族が好きなファンを始め、2回目、3回目と回を重ねて観ても新しい発見がある作品だ。アニメ界で巻き起こっている『転スラ』ブームに便乗するなら、シリーズに共通する「『転スラ』らしさ」が凝縮された劇場版が公開している今がまさにその時だろう。本記事で解説した『転スラ』の人気の理由を確かめにいく意味でも、是非劇場に足を運んでみてほしい。
■公開情報
『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』
全国公開中
原作:川上泰樹・伏瀬・みっつばー『転生したらスライムだった件』(講談社『月刊少年シリウス』)
ストーリー原案:伏瀬
監督:菊地康仁
出演:リムル:岡咲美保、ヒイロ:内田雄馬、トワ:福本莉子、ベニマル:古川慎、智慧之王:豊口めぐみ、ヴェルドラ:前野智昭、シュナ:千本木彩花、シオン:M・A・O、ソウエイ:江口拓也、ハクロウ:大塚芳忠、クロベエ:柳田淳一、リグルド:山本兼平、ゴブタ:泊明日菜、ランガ:小林親弘、ゲルド:山口太郎、ガビル:福島潤、ディアブロ:櫻井孝宏、ヴィオレ:富田美憂、ラキュア:木村昴
脚本:筆安一幸
キャラクターデザイン:江畑諒真
モンスターデザイン:岸田隆宏
総作画監督:田中雄一
コンセプトアート:富安健一郎(INEI)
美術デザイン:ボワセイユ レミ、佐藤正浩
美術監督:佐藤歩
美術:スタジオなや
色彩設計:斉藤麻記
モニターグラフィックス:生原雄次
CGIプロデューサー:町田政彌
編集:神宮司由美
撮影監督:佐藤洋
撮影:チップチューン
音響監督:明田川仁
音楽:藤間仁(Elements Garden)
アニメーション制作:エイトビット
配給:バンダイナムコフィルムワークス
©川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会