三谷幸喜にしかできない終わらせ方 『鎌倉殿の13人』が残したとてつもなく重い課題
だからこそ、承久の乱の後で描かれる義時の最期の場面は、彼が因縁のある人々と次々と対峙する、ディスカッションドラマとしての側面が大きくなる。自分をモデルに仏像を彫れと命じられた運慶(相島一之)は、不気味な仏像を義時に差し出す。
義時の3人目の妻・のえ(菊地凛子)は、実の息子を北条の跡取りとするため、義時に毒を盛って殺そうとする。そして、のえが盛った毒を調達したのは、親友の三浦義村(山本耕史)だったことが分かる。
鎌倉の危機を救った義時だったが、彼の周りは敵だらけで、家族からも疎まれている。何より帝一門を流罪にしたことで、彼の名は天下の大悪人として世に轟いていた。それは政子も同じだった。身内を追いやり尼将軍となった自分は「稀代の悪女」として歴史に名を残すだろうと、政子は想像する。頼朝(大泉洋)から受け継いだ鎌倉を次の世代に繋げたのだから後悔はないと語る政子。それは義時も同じで、むしろ真の目的は息子の泰時のために、あらゆる汚名を引き受けることだった。
「この世の怒りと呪いを全て抱えて、私は地獄へ持っていく」と語り、幼い先帝の命すら奪おうと目論む義時。そんな弟の気持ちを理解した政子は「私たちは、長く生き過ぎたのかもしれない」と言って薬を故意にこぼし、義時の最期を看取る。
義時が死んで暗転となり、政子のすすり泣く声が聞こえる中、物語は幕を閉じる。舞台劇のような幕引きで、これは三谷にしかできない終わらせ方だと感じた。
『鎌倉殿の13人』は、作劇手法の洗練という意味において三谷幸喜の最高到達点と言える作品となった。同時にこれまで敗者の視点から物語を紡いできた三谷が、勝者の視点から物語を描いたという意味で、新境地と言えるドラマだった。
それにしても、鎌倉時代という「日本の中世」を舞台に、三谷が大河ドラマを書くと知った時は「なぜ今、鎌倉時代を書くのか?」と不思議でならなかった。
だが、放送がはじまった直後に、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。日本では安倍晋三元首相が暗殺され、事件をきっかけにカルト教団の宗教2世問題が大きく取り上げられるようになっていった。2022年のめまぐるしい変化の中で『鎌倉殿の13人』を観ていると、混沌とした鎌倉時代と今の時代には、どこか重なり合うものがあるのだと、実感するようになった。
2022年はアニメ『平家物語』が地上波放送され、室町時代を舞台に能楽師と琵琶法師を主人公にした劇場アニメ『犬王』が公開された。『週刊少年ジャンプ』(集英社)では鎌倉幕府滅亡から始まる北条時行を主人公にした歴史漫画『逃げ上手の若君』が人気を博している。どの作品も日本の中世を描くことで、現代を照射する物語となっている。
その極北が、三谷幸喜の『鎌倉殿の13人』だった。家族や仲間のために悪名を引き受けようとした義時の死から、わたしたちは何を持ち帰ればいいのだろうか。本作の残した課題はとてつもなく重い。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』総集編(全4章)
NHK総合にて、12月29日(木)13:05~17:40 放送(中断ニュースあり)
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK