『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』劇場でNetflix最大ヒット 新たな公開モデルを導入

 11月24日は、アメリカで最も重要な祝日とされる感謝祭。この週末は北米映画市場も書き入れ時とあって、いくつもの話題作が週末興行収入ランキングを賑わせた。

 第1位は、やはり『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』でV3を達成。第2位にはディズニー・アニメーション・スタジオ最新作『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』が、第4位には『トップガン マーヴェリック』(2022年)ハングマン役でブレイクしたグレン・パウエル主演の実話戦争映画『Devotion(原題)』が初登場となった。

 感謝祭にあわせた拡大公開で存在感を一気に高めたのは、第7位のスティーヴン・スピルバーグ最新作『The Fabelmans(原題)』と、第8位の『君の名前で僕を呼んで』(2017年)ティモシー・シャラメ&ルカ・グァダニーノ監督が再タッグを組んだ恋愛ホラー映画『Bones and All(原題)』。どちらも賞レースでの活躍が非常に期待される注目作だ。

 しかしながら、今週もっとも驚くべき結果を残したのは、第2位の『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』である。ダニエル・クレイグ主演のミステリー映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019年)の続編で、Netflixが第3作とともに配給権を獲得。エドワード・ノートン、デイヴ・バウティスタ、ジャネール・モネイらが出演し、2022年12月23日に世界配信予定となっている。

 今回、Netflixは「配信開始の1カ月前に1週間限定で劇場公開する」という新たなモデルを導入。11月23日に696館で公開されるや、金曜~日曜の3日間で940万ドル、水曜~日曜の5日間で1328万ドルを稼ぎ出す大成功を収めた。最終日の29日には1500万ドルを超える見込みで、Netflixの劇場公開作品としては史上最高記録となる。

 これまでNetflixは、配信の約1週間前に劇場公開を実施してきたが、これらはさほど大きな利益を上げていなかった。しかし『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』では、北米最大の映画館チェーンである「AMC」「リーガル・シネマズ」「シネマーク・シアターズ」との契約を初めて結び、映画館側に利益のある形での上映に踏み切ったのである。

 ライオンズゲートが配給を担当した前作は、2019年11月、同じく感謝祭の週末に3461館にて公開され、3日間で2676万ドル、5日間で4141万ドルを獲得。業界のアナリストは、今回も同規模の公開ならば4000万~5000万ドルの興収が見込めたと推測している。ただしNetflixにとって、今回の公開モデルはあくまでも今後の指標にすぎないとのこと。大きな利益を上げることもできたのだろうが、真の目的は別にあるのかもしれない。

 ともあれ、「大人向けの映画に客が入らない」と言われて久しいコロナ禍において、『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』とNetflixの成功は、業界における大きなゲームチェンジの可能性を示唆している。

 第4位『Devotion』はグレン・パウエルのほか、『クリード3(原題)』『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)の注目株ジョナサン・メジャースが主演を務める旬のキャスティングだが、朝鮮戦争を描いた実話映画とあってハードルが高いのか、3405館の公開ながら3日間で596万ドルと『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』に敗れる結果となった。スピルバーグの半自伝映画『The Fabelmans』や、“カニバリズム・ラブストーリー”という間口の狭い、しかし高評価を得ている『Bones and All』にも、こうした傾向は共通する。

 劇場公開にこだわった“大人向け映画”が厳しい戦いを強いられるかたわら、Netflixがイベント的な企みをもってランキング上位にあっさりと入ってしまうことは、現在の映画館に観客が求める役割を表しているかのようだ。『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』も大人向けの映画と言って差し支えなく、一方で『Bones and All』にはシャラメのファンである若年層が主に足を運んでいるというねじれも、この状況の複雑さを示しているだろう。さらに『The Fabelmans』は、12月23日に早くも北米での配信が始まる予定となっている。

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