『silent』夏帆目線でこれまでを振り返る 目黒演じる想を救った“おしゃべり”な奈々

 奈々(夏帆)の指先から繰り出されるリズムの良いおしゃべりな言葉の数々。きっとそれは、一人孤独に塞ぎ込んでいた想(目黒蓮)の心のドアを、いつも優しく軽やかにノックし続け、世界と彼を繋げ直してくれたのだろう。音がない世界は悲しいことばかりでない。そのことを、初めて会った日からずっと彼女自身の姿が想に教えてくれていた。

 そんな「聴者もろう者も同じ」とごく自然に言う奈々が、恋愛においてだけは臆病になり、聴者とろう者、さらには中途失聴者をはっきりと区別する。彼女がこれまであの笑顔の裏で一人静かに諦めてきたことや疎外感を味わってきたことが滲み苦しい。なんだかそのさまは、手話教室の講師・春尾(風間俊介)ともリンクする。

 『silent』(フジテレビ系)第7話では“使い回された”と思っていた大切な人にあげたプレゼントを“お裾分けした”と思い直せたと言っていた奈々。彼女自身の世界がより一層自由な広がりを見せてくれていた。

 難聴になってからの想にとって生まれつき耳の聞こえない奈々は、唯一2人で会う存在。想が自分に対して友愛以上の感情を抱いていないことなんてきっと奈々自身もわかりきっていて、それでもよかったのだ。紬(川口春奈)が現れるまでは、その“特別なポジション”は奈々だけのものだったのだから。そして、想に立ち入れない部分があっても、それは奈々の中では“中途失聴者”と“ろう者”の違いとして書き換えられ、仕方ないものだと消化しようとしてきたのだから。それが、耳が聞こえない者同士の自分を飛び越え、“中途失聴者”と“聴者”という立場の違いも超えて、互いに変化を及ぼし合っている想と紬の姿は直視できないほど奈々の心をえぐる。彼らの姿は、奈々の中にある蓋をしきれなくなった想への恋い焦がれる気持ちを無視できないものにする。これまで立場の違いを理由に自分自身を諦めさせ、手を伸ばすことさえ躊躇してきた憧れや、まだ見ぬ世界をありありと思い起こさせるのだろう。苦し紛れに絞り出す「18歳で難聴になって23歳で失聴した(想と全く同じ立場の)女の子を探しなよ」という奈々の非現実的な言葉に、その切羽詰まった苦しい胸の内が込められていた。

 「奈々にだけ伝わればいいから」と彼女と話すために一生懸命覚えてくれた手話で紬と向き合おうとする想の変化にも、何より彼が前向きに変わっていくのを素直に喜べない自分自身のことも悲しく受け入れ難い。想がどん底の時に近くにいたのは自分なのに。その時、紬が変わらず隣にいれば自分は想とは出会えなかったかもしれないし、そうすれば手話で想と話すこともできなかっただろう……そんなこともどこかで奈々の頭を過ったかもしれない。

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