『ちむどんどん』料理を提供し続けた半年間 黒島結菜の新たな旅路に幸多からんことを
12年間暮らした東京や鶴見を離れ、家族とともに生まれ育ったやんばるに移住することを決めた暢子(黒島結菜)。『ちむどんどん』(NHK総合)第120話では、そんな彼女に師である房子(原田美枝子)が最後の“命令”を下した。
「あなたは沖縄に行っても、どこに行っても、おいしいものを作って、みんなに食べてもらいなさい。それだけはずっと続けなさい。あなたならそれができる。私の命令は絶対」
料理をすることと、演じることは似ている。用意された食材(役柄)に自分なりの味付け(表現)を加える。そうして誰かに提供したものが、美味しく食べてもらえることもあれば、不味いと突き返されることも十分にあり得る。
特にネット空間に浮遊する“お客さん”の反応はシビアだ。匿名性の高さを利用した攻撃的な意見も少なくない。それはまるで、権田(利重剛)の一派が「アッラ・フォンターナ」の壁に描いた落書きのように。
実際にこの半年間、毎日のように暢子やその演者である黒島への見るに耐えない批判も散見された。それでも、どうか演じることをやめないで。房子から暢子への命令は俳優の大先輩である原田から黒島へのそんなメッセージにも聞こえたし、暢子の涙も朝ドラヒロインという重責を全うできたという黒島自身の安堵から溢れ出てきたものに思えた。
比嘉暢子という朝ドラヒロインが賛否を呼んだ理由。それはひとえに、彼女が“ちむどんどん”する自分の心に忠実な女性だったからだ。東京へと向かうバスから降りたあの日、暢子の人生は本当の意味で幕を開けた。
借金に苦しむ家族のため、親戚の家に養子としてもらわれていくことを決意した暢子の自己犠牲は一見美しい。だが、あのまま暢子がバスから降りてこなかったらどうなっていただろう。もらわれていった先が房子の家なら、暢子はそれはそれで幸せな人生を送れていたかもしれないが、家族はずっと罪悪感に苛まされる。
暢子が我慢してその役割を背負ってくれたのに、「自分だけが幸せになるなんて」と兄妹たちは色んなことを諦めてしまったかもしれない。特に沖縄戦を経験している優子(仲間由紀恵)にとってはどんな理由があろうとも、再び家族を失うのは耐え難いことだったはず。
大切な人の幸せを願うなら、自分の幸せを諦めてはいけない。そう学んだ暢子はいつ、いかなるときも心のときめきを大事にしてきた。しかし、ローカルコミュニティを一歩出た途端に、暢子は“世間知らずのお嬢さん”になってしまう。
やはり上京してからの彼女は、自分の行く道を阻むいくつかの壁にぶち当たった。例えば、矢作(井野脇海)や重子(鈴木保奈美)の存在。全くの赤の他人である彼らが暢子の希望をすんなり叶えてくれるほど、世の中は甘くない。だけど、そこで対話を諦めないところに暢子の強さがある。