『魔法のリノベ』こだわりの見せ方はどう実現した? 岡光寛子プロデューサーに聞く裏側

「とにかくスタッフの皆さんが優秀だったということに尽きる」

――ドラマにおいて、すごく印象的なのが、脚本の中の建物や部屋を現実にしていくという部分です。これは絵とか文字ならコストが掛かりませんが、映像となるとすごく大変だと思いました。予算、デザイン、配色などで一番難しかった点を教えてください。

岡光:ビフォーアフター含めて、もう全てが大変でした。それこそスタッフの総力で作り上げました。原作があるものに関しては、まず似たような物件を探してくるところから始まります。ドラマにはロケ場所を見つけてきてくれる制作部という部署があるのですが、全く一緒の間取りではないけれど、作品のテーマで何が大事かをキーに探してくれて、それをもとにビフォーアフターをどう表現するのかを監督と美術部が考える。実写で補えない部分はCGやVFXにするのですが、それをどう撮るかを考える技術部もいます。また、3DCADが出てきていますが、どこをCADにするかも調整しました。さらにミニチュアはどこで表現しようか、なども。全てにおいて「美打ち(美術打ち合わせ)」ならぬ「リノベ打ち」みたいなものをやりましたね。アフターセットを立てようということもあれば、エンドロールだけのために建ててすぐに崩すという作業もありました。他にも大道具さんに壁を持ってきてもらって物件の中に部屋を作り、アフターでその部屋の壁をとっぱらったことも。とにかく1軒も同じ家はないので、全10話で11軒分のビフォーアフターを相談してやっていくという、とてつもない人力作業でした。そこが一番大変だったところです。とはいえリノベドラマとして、そこはこだわりたいという皆の共通認識があったので、互いの知恵を出し合って11軒をどうするかという話し合いを重ね、なんとか形になりました。

――なぜここまで大変なことが現実として可能になったのか、そこに何か秘密はあるのでしょうか?

岡光:いやもう、人海戦術でしかありません。予算が他よりもかかっているとか、スタッフが普通のドラマより多いとかいうことはなく、通常運転の中で皆が知恵を絞ったということなんですけれど、美術部が特に大変だったと思います。物件は元々空箱なので、そこを人が住んでいるように飾り込むというだけでも大変。なのにビフォーアフター両方とも家の中の装飾を飾り込まないといけません。加えて、アフターは皆が未来に向かって歩き出すような素敵なデザインにしなければならないのです。美術のプロデューサーがいて、デザイナーがいて、装飾部がいて、大道具小道具がいて、フードコーディネーターがいてと皆で手分けをして、本当に暮らしている人たちの家のように仕上がっていく。とにかくスタッフの皆さんが優秀だったということに尽きます。

――この作品はエンディングもすごく大切に作られていると感じました。リノベーション後の新しい生活が始まるところを、あえて本編に入れずにエンディングに持ってきて、その上エンディングをあそこまで徹底して撮る。ここまで、こだわって作っていた理由を教えていただけませんか。

岡光:実はアフターの家をどのタイミングで見せるかは、なかなか結論が出なくて、1話の編集ギリギリまで迷いました。「どうぞイメージなさってください」のところで1回見せるパターンもあったので、そのバージョンも撮っています。でもこの作品は、情報を伝えるのではなくあくまでも人間ドラマなので、その部分を大事にしたい気持ちと、エンディングの限られた75秒の中で、いかにその人たちの暮らしや明るくなった未来を見せるかを考えたときに、会話が全部聞こえないからこそ視聴者の皆さんが余白を残しながら観てもらえるのは素敵だねということになりました。そういったことを思わせてくれたのがヨルシカさんの書き下ろしの主題歌「チノカテ」です。上がってきたときに、これに合わせてミュージックビデオ風にしたら、多幸感のあるエンディングに仕上がるのでは瑠東監督が提案してくれました。ドラマは観終わった後に何が残るかも大事ですよねという話を、脚本の上田さんと瑠東監督たちとする中で、幸せな人たちの暮らしや笑顔が月曜日の夜の放送後にちゃんと視聴者の心に残り、また1週間を頑張るための活力になったらという思いを込め、あそこに集約させてもらったというわけです。

――家のリノベーションと人生のリノベーションがリンクしてテーマになっていると思いますが、ここに説得力を持たせるために何か現場で工夫したことはありましたか?

岡光:星崎真紀さんの原作がしっかり取材をされていて丁寧に作られているので、脚本を担当している上田さんがその土台を大事にしつつ、ドラマならではの新しい世界観を構築してくださいました。毎話ごとにリノベの仕事を通じて気づきがあり、それが小梅や玄之介の仕事やプライベートにもはね返ってくるという構成になっています。9話でいうと、パンドラの箱と自分たちのことがリンクしていましたよね。進之介のお道具箱のエピソードにもかかっています。仕事って自分たちだけでできるものではなく、相手がいてこそ成立するものです。そして自分たちが何か与えているつもりが、本当は向こう側からもらっているものもたくさんあって、幸せな気持ちにさせてもらっている。そういう仕事の捉え方もあると思っていて。当初は小梅ができる営業マンで玄之介は分かりやすく言えばポンコツ。だから一見小梅が玄之介を指導しているように見えるのですが、実はそういう優しすぎる玄之介から小梅が影響を受けたり助けられたりする部分もある。働くということは自分たちの足りないピースを誰かに補ってもらうことであり、誰かとの出会いによって矢印が上に向いていくということでもあるのかなと。また、このドラマの大きなテーマに「再生」を掲げているのですが、それがリノベに繋がってきます。人やモノは、いろんなきっかけで生まれ変わっていくということを、家のリノベーションと人生のリノベーションにかけています。このコロナ禍にいろんなことを失ってしまった人、そして諦めてきた人たちに対して、“リノベ=再生”みたいなテーマでできたらという思いからこのドラマがスタートしたのですが、そこを梅玄コンビが体現してくれたと思っております。

――では最後に、最終話の見どころをお願いします。

岡光:最終話は本当に盛りだくさんです。視聴者の皆さんも、どう回収されるのか気になることがたくさんあると思いますが、そこを全部詰め込んで、笑って泣けて楽しんでもらえる話になっています。ドラマが終わっても彼らの日常は続いていくので、そんなことを想像しながらリノベの世界を最後まで楽しんでもらえたらと思います。最終話のエンディングがどうなるのかにも、ぜひ注目していただけたら嬉しいです。

■放送情報
『魔法のリノベ』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:波瑠、間宮祥太朗、金子大地、吉野北人(THE RAMPAGE)、SUMIRE、本多力、山下航平、YOU、近藤芳正、原田泰造、遠藤憲一
原作:星崎真紀 『魔法のリノベ』(双葉社 JOUR COMICS)
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
主題歌:ヨルシカ「チノカテ」(ユニバーサルJ)
音楽:瀬川英史
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、伊藤茜(メディアプルポ)、田端綾子(メディアプルポ)
監督:瑠東東一郎、本田隆一
制作協力:メディアプルポ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mahorino/
公式Twitter:@mahorino8
公式Instagram:@mahorino88

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