『初恋の悪魔』で急浮上した“父と息子” 鹿浜と摘木が食べた2つのケーキが示すもの

 喫茶店で流れていたクラシックの題名が「私のお父さん」だと朝陽から教えられたことを思い出した本城は「刑事にとって上司は親だ」と語り、淡野リサ(満島ひかり)を射殺するように仕向けた雪松に対して不信感を持った朝陽の心情は「暗い森の中で父親に置いて行かれた子供みたいなもんだったんだろう」と振り返る。

 朝陽が雪松に対して抱いていた気持ちは「初恋の人」と「父親」という二つの言葉で表現される。

 「初恋の人」と朝陽が言う場面はタイトルの「初恋の悪魔」の意味のネタばらしのようにも聞こえるが、仕事上の上司でしかない雪松を「初恋の人」や「父親」といった極端な言葉で表現することに対する違和感は大きい。それだけ朝陽の人間関係が希薄で、彼が孤独だったことの裏返しなのだろう。雪松との関係性に絶対的なものを見出してしまう朝陽の姿は宗教的で、彼をとりまく警察組織の存在自体が、カルト教団のように見えてくる。

 第8話のラストには、雪松の息子・弓弦(菅生新樹)が登場し、これまでの事件と何らかの関わりがあるのではないかと匂わせて次回へと続く。ここに来て急浮上した「父と息子」という関係性の描き方にも要注目である。

 一方、第8話は、朝陽が蕎麦を食べていた場面や、本城がみぞれのアイスクリームを好んで食べていた場面のような、食事にまつわるシーンが印象的だった。坂元裕二作品における食事シーンは、枚挙に暇がなく、会話と食事によってドラマが成立していると言っても過言ではない。今回はなんといっても悠日の差し入れしたカレーを食べたことで、一時的に摘木の人格が入れ替わり、彼女が悠日の元に駆けつけるシーンが圧巻だった。

 個人的には冒頭の鹿浜がイチゴとマスカットのケーキを買ってくる場面が印象深かった。摘木のためにケーキを買って帰ると彼女も同じケーキを二つ買って、待っていため、二人は二つのケーキをいっしょに食べる。

 二つのケーキは、表面上は彼女(ヘビ女)の人格が消えることにお互いに納得しているように振る舞いながらも、心の奥底では二人共、摘木星砂の中に存在する二つの人格が共に生き残る方法はないのかと考えていることを、暗に示しているように感じた。さりげなく描かれているが、実に切ないやりとりである。

■放送情報
『初恋の悪魔』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送
出演:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣、味方良介、安田顕、田中裕子、伊藤英明、毎熊克哉
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生ほか
プロデューサー:次屋尚ほか
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/
公式Twitter:@hatsukoinoakuma
公式Instagram:@hatsukoinoakuma_ntv

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