昭和の匂いをまとって平成に作られ、令和に伝えられる 『私立探偵 濱マイク』なぜ伝説に?

「俺は私立探偵、濱マイク。本名だ。困ったときには、いつでも来なよ」

 キメ台詞とともに、濱マイクが帰ってきた。2002年に放送された永瀬正敏主演のドラマ『私立探偵 濱マイク』が、放送開始20周年を記念してHuluなどで配信が始まった。DVDは発売されているが、OP曲のEGO-WRAPPIN’「くちばしにチェリー」がカットされていたバージョンだった。今回はOP曲、YOUによるふざけ倒した次回予告も含めたオリジナル版の配信となる。

 実在した映画館・横浜日劇に事務所を構える万年金欠の私立探偵濱マイクが、持ち込まれたトラブルを解決するために奔走したり、トラブルに巻き込まれて七転八倒したりする様を描く。林海象監督による三部作『我が人生最悪の時』(1994年)、『遥かな時代の階段を』(1995年)、『罠』(1996)年から誕生したキャラクター・濱マイクを中心に、設定を一新して制作された『私立探偵濱マイク』は「伝説のドラマ」と呼ばれることが多い。高良健吾が本作を観て俳優を志したというエピソードはよく知られている。では、一体何が「伝説」なんだろうか? それを解き明かしていきたい。

 まずはスタッフ。全12話に12人の監督が起用されるという空前の制作体制だった。いわば濱マイクを主人公に据えた短編映画のオムニバスだ。これをプライムタイムの連続ドラマでやってのけたのがすごい。顔ぶれも多士済々。『EUREKA』(2001年)の青山真治、『GO』(2001年)の行定勲、『爆裂都市 BURST CITY』(1982年)の石井聰亙(現・岳龍)、『下妻物語』(2004年)でデビューする直前の中島哲也、劇作家で個性派俳優としても知られる岩松了、『けものがれ、俺らの猿と』( 2001年)の須永秀明、『シド・アンド・ナンシー』(1986年)のアレックス・コックスらが監督として登板。基本設定は守りながらも、独自の解釈でストーリーを紡いでいた。毎回独自のエンドクレジットが出るのは、それぞれが独立した一つの作品である証明だろう。なお、青山真治が監督した第6話「名前のない森」の71分バージョンはベルリン国際映画祭に出品されている。

 脚本にも『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)の薩川昭夫、漫画家のやまだないとらが参加。さらに音楽担当も12話毎回異なっているという凝りようだった。OP映像はハイブランドの広告写真で知られるファッションフォトグラファーのグレン・ルックフォード、濱マイクの事務所をはじめとするコンセプチュアルデザインは『キル・ビル Vol.1』の種田陽平が手がけている。また、番宣スポットはCM監督時代の吉田大八が制作したという。

 キャストもすさまじかった。濱マイクを取り巻くレギュラーは、中島美嘉、市川実和子、村上淳、松岡俊介、阿部サダヲ、松田美由紀、井川遥、酒井若菜、川村亜紀、中村達也(BLANKEY JET CITY)、山本政志、小泉今日子という面々。謎めいた景品交換所の情報屋を演じた小泉今日子、メガネをかけて地味な映画館のモギリを演じた井川遥の意外性も良かったが、なんといっても芝居だけでなくアクションも演じてみせた中村達也がインパクト抜群。ライブハウスのオーナー役だったため、劇中でLÄ-PPISCH、ナンバーガール、東京スカパラダイスオーケストラがライブを披露している。

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