『石子と羽男』石子と大庭の進んでみることで変わる恋 羽男の“見えない”心情のもどかしさ
「パートナーって感じになってきたな〜」
と、視聴者の気持ちを綿郎(さだまさし)がつぶやいてくれた金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)第6話。石子(有村架純)が羽男(中村倫也)、2人が共に依頼先に向かうのは、石子が羽男についていきたがってるのか、はたまた羽男が石子についてきてほしがっているのか。
弁護士とパラリーガルだから仕方がない、と2人がコンビを組んだ当初を懐かしく思う。石子は羽男がトラブルが起きないようにと監視しなければならなかったし、羽男はそんな石子を頭の固いヤツだとめんどくさそうにしていたほどだった。
しかし、今の2人はどうだろう。「いいよ、ついてきても」「ついてきてほしいんですね?」と言い合ってお互いにニンマリ。いつの間にか2人の間にあった“仕方なく”という義務感は、“相棒だから”という信頼感へと変わっていった。
同時に2人の人となりの変化にも気がつく。石子は羽男の軽口に笑顔でノるし、羽男も過剰なブランディングにとらわれなくなっている。それは、“この瞬間から”といった明確な境界線を引くことは難しい。けれど、ぬか床の中で水ナスがいい味に漬かるように、いつの間にか起こった嬉しく、そして楽しい変化だ。やはりこのドラマは、そんな“見えない”ものに思いを馳せる時間なのかもしれない。
幽霊の正体は、子育ての閉塞感と化学物質
今回の依頼人は、分譲賃貸マンションに住む高梨(ウエンツ瑛士)。幼い双子を抱えワンオペ育児に奮闘する妻・文香(西原亜希)が「孤独死があった部屋だ」と匿名の手紙を受け取ったことで、幻覚や幻聴に悩まされるようになったそう。そんな訳ありの幽霊物件であることを告知しなかった不動産会社に対して、引っ越し費用の請求と違約金発生の契約無効を希望する高梨夫妻のために、石子と羽男は動き出す。
しかし、不動産会社の社長・六車(佐藤仁美)は、なかなかのやり手。ならばと2人は匿名の手紙を送った差出人から慰謝料を請求しようと企む。その案を口に出すタイミングもなぜか手のポーズまで息ピッタリ。羽男も思わず「いいね〜」とご満悦だ。さらには高梨の会社の顧問弁護士の席も「ワンチャンあるよ?」「ありますかね〜」「ハハハ」と2人で高笑いする姿に、こちらもニンマリしてしまう。
羽男は自由に、そして石子は堅実に。バラバラな2人らしい息の合った調査によって、怪文書は文香と同じく認可保育園に入れずに悩んでいた母親によるものだったことがわかる。双子を育てている文香のほうが保活のポイントが高く、自分よりも優先されてしまうため、引っ越してほしいと考えてのことだった。
保活(子どもを保育園に入れるため保護者が行う活動)のポイントとは、保護者の就労状況や健康状態、兄弟や頼れる親類などの家庭状況などを点数化したもの。より点数が高いほうが、優先的に保育園に入れることもあり、ベビーシッターの利用など加点される実績を作って戦略的に保活する保護者も少なくないという。
とはいえ、ポイントはあくまでも目安でしかなく、どれほど大変かは他人が図るのは難しい。同じように見えても子供の個性によっては育てやすさも大きく変わる。保護者が務めている会社の規模、育児休業への理解の広がりによっても。それこそ1人ひとりが抱えるしんどさは“見えない”のだ。
さらに、幽霊の仕業とされた文香の幻覚・幻聴が、六車が行ったずさんなリフォームによる化学物質が原因のシックハウス症候群であることも突き止めた。さらに柔軟剤や香水など“見えない”香りによって体調を崩してしまう化学物質過敏症まで併発していたことがわかる。
「多くの人がこなしているのだから大丈夫」「他の人が気になっていないのだから我慢できるはず」とするのは、本当に苦しんでいる人を取りこぼしてしまうことになる。育児の大変さも、化学物質も、あるいは今はまだ顕在化していないだけで、もっといろんな“見えない”苦しみがこの社会にはありそうだ。声を上げることで見えてくる、現代の幽霊が。