苦悩するムロツヨシから学ぶ、あるべき社会の姿 『雨に消えた向日葵』の切実なメッセージ
「目撃者求む」「心当たりのある方はご連絡ください」「搜しています」……こうした目撃情報を求める看板を、誰もが一度は目にしたことがあるのではないだろうか。平和な日々を過ごしていると、どこか他人事として感じて見過ごしてしまいがち。だが、本当にそうだろうか。その事件や事故が起こった場所を通りかかっている時点で、自分が、あるいは自分の大切な人が、その被害者となっていてもおかしくなかったのではないか。
『連続ドラマW 雨に消えた向日葵』(WOWOW/全5話)。このドラマは、そんな看板の向こう側に思いを巡らせる物語だ。それはいつ何が起こってもおかしくないこの世の中を、少しだけ優しくするきっかけになるかもしれない。
向日葵が咲く、夏のある日。家に帰る途中だった女子小学生・石岡葵(大島美優)が、雨傘だけを残して突然姿を消した。葵の両親は離婚調停中。どうやら悩みを抱えていたことが、友人との交換日記から浮かび上がる。また、タウン誌の表紙を飾るほどの美少女であることから、不審な車に追われていたという情報も。家出か、誘拐か、あるいは不慮の事故か。絞りきれない可能性に警察の捜査も難航する。
無情にも有力な手がかりがつかめないまま時間だけが経過し、無情にも捜査本部は解散へ。しかし、葵の無事を願う父親である石岡征則(佐藤隆太)と共に執念の捜査を続ける刑事がいた。捜査一課の警部補・奈良健市(ムロツヨシ)だ。周囲から「なぜそこまで?」と思われるほど、この事件に入れ込む奈良。その執念は、妹・奈良真由子(平岩紙)が襲われた過去が関係していた。
葵の失踪と真由子のトラウマ。奈良は2つの事件を重ねて背負い込む。まるで葵を助けることで、十数年前に傷つけられた真由子を救おうと言わんばかりに。いや、真由子を守りきれなかったと後悔し続ける自分自身の心を晴らすためだったのかもしれない。
だが、葵の捜索は遅々として進まない。どうして事件を回避することができなかったのかという罪悪感、世間から忘れ去られて情報が集まらなくなっていく焦燥感、そして時間が経つごとに膨らんでいく失望感……被害者家族が抱くやるせなさが、本作ではじっくりと時間をかけて紡がれ、物語を見守る我々視聴者にも無力感を突きつける。
とはいえ、動かなければ事件は風化する一方。奈良と葵の家族たちは、少女の無事を信じて様々な手を打つ。そのなかには誹謗や中傷といった心ない反応が返ってくることもあった。なぜ傷つけられた被害者側が、さらに痛めつけられなければならないのかと心が押しつぶされそうになる。だが、そんな痛みを伴うリアクションさえも、我関せずと興味を示さない人の冷たさより、よっぽど良いと思えてくるのがさらに苦しい。