山下愼平(プロデューサー)×小出卓史(OPコンテ演出)×黒田結花(キャラクターデザイン)インタビュー(前編)

アニメ『メイドインアビス』はいかにして作られたか OP映像&キャラデザの裏側を聞く

 つくしあきひとのマンガを原作としたテレビアニメ『メイドインアビス』のシリーズ2期にあたる『メイドインアビス 烈日の黄金郷』が好評放送中だ。

 本作は、謎の巨大な縦穴「アビス」に挑む少年少女たちのファンタジー作品。深層にいると思われる母親に会いに行くため、危険をおかしてアビスに挑む少女リコと、リコを守る少年型のロボット、レグ、そして冒険の最中に出会ったナナチの3人を中心に、過酷ながらもワクワクが止まらない冒険譚が描かれる。その緻密で深遠な世界がアニメーション映像によって、見事に表現されており、国内外のアニメファンから高く評価されている。

 本作のアニメーション制作を担当したのは、キネマシトラス。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』や『盾の勇者の成り上がり』などを手掛けてきたスタジオだ。

 今回は、『アビス2期』のオープニング映像(OP)の演出・絵コンテを手掛けた小出卓史氏とキャラクターデザイン担当の黒田結花氏、プロデューサーの山下愼平氏に話を聞く機会を得られた。アニメーターとしてのこだわりから、コロナ禍を経て変化したアニメ業界の話まで多岐に渡る話題を前後編でお届けする。

 前編の今回は、小出氏が手掛け評判を呼んでいるOP映像と、黒田氏が初挑戦したキャラクターデザインの話題を中心に紹介する。(杉本穂高)

大評判のOPは「敢えて普通のことしかやってない」

――テレビアニメ2期の放送開始後、反響に関して手ごたえはいかがですか?

山下愼平(以下、山下):2017年の1期、2020年の劇場版を経ていますから、すでにこの作品を心待ちにしているお客さんがたくさんいらっしゃる状態だったので、どんな反響があるかドキドキするというより待ってくれていた人たちが喜んでくれるといいなという気分でした。きちんと喜んでいただけているようなので何よりです。2期から本格的に参加してくださったスタッフの方、それこそ、OP演出をやってくれた小出さんやキャラクターデザインの黒田さんたちのご尽力もあって、さらに人気が高まっていると感じています。

――小出さんは、今回OP映像の絵コンテと演出を担当されています。いつ頃オファーされたのですか?

小出卓史(以下、小出):『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』をやっている頃から声をかけられていて、その時は「今は考えられない」と答えていたんですが、改めて昨年末くらいにどうですかと話をいただき、年明けからコンテ作業に入りました。

――OP演出を手掛けてみて、ご自身での手ごたえはいかがでしょうか。

小出:『アビス』はコンテンツとしてとても強い作品で、ファンもすごく高い熱量を持っていますから、ちゃんと太刀打ちできたかなとみなさんの反応を見て祈っている感じです。

山下:すごく出来が良いので、YouTubeのKADOKAWA Anime ChannelでノンクレジットのOPをアップしました。うちの営業チームも文字が邪魔したらもったいないと言ってくれて快く快諾してくれたんです。再生回数もぐんぐん伸びています。

「メイドインアビス 烈日の黄金郷」ノンクレジットオープニング映像

――素晴らしい完成度でしたね。現在と過去を交錯させる構成になっていましたが、この構成はどのように決めたのでしょうか。本編のシリーズ構成とも関わってくる部分かもしれませんが。

小出:小島(正幸)監督は大御所ですから、OP演出に何か指定をいただくかなと思っていたんですが、割と任せていただきまして、自分で思っていた以上にこちらから提案できました。あの構成を選んだのは、やはり本編との兼ね合いが一番強くて、本編は原作から構成を変更して過去から始まり現在へとつなげていたので、OPも本編と相対的な距離を持った方がいいと思い、時系列順に過去と現在を同時並列で進めてみようと思いました。

――ああして並列に見せることで、ガンジャ隊もリコたちと同じように憧れを抱いていた探窟家なんだという思いを強くしました。

小出:それはやはり、つくし先生の原作が描かれていない部分にも世界が拡がっているから感じられることです。それと、小島監督が本編をてらいなく堂々とやっているのに、僕が堂々としないわけにはいかないのでトリッキーな表現に頼るのはやめました。

――黒田さんはOPの作画監督も担当されています。小出さんの絵コンテを読んでどんな印象を受けましたか?

黒田結花(以下、黒田):正直言うと、映像が出来上がってからびっくりしました。コンテを読んだ時は、タイミングを短く切っているから「これ、(視聴者は)わかるかなあ」って思ったんですけど、完成映像みたらばっちりでした。

小出:カットを細かく刻んだのは後半の部分ですね。このOP、前半はわかりやすくて、後半になるとカット数が極端に増えてわかりにくいと思いますけど、前半がわかりやすければいけるかなという気持ちでした。

黒田:わからなくても大丈夫だろうという感じだったんですか?

小出:わかった方がいい部分とわからなくていい部分があると思っていまして、曲のサビで成れ果て村の描写があるから、そこをOPで全て明らかにする必要はないと考えました。カット数は多くなるけど、制作進行が良いメンバーを集めてくれると信じていたのでできたという面もあります。

黒田:短い尺でもカメラワークなどもこだわっていて、すごくカッコいいと思いました。

――絵コンテを切る際、OPの楽曲からの影響はどの程度ありましたか?

小出:大きく影響を受けてますね。今作っている短編や『レヴュースタァライト』などは、絵コンテを先に切ってから曲を作ってもらい本カッティングする流れでしたが、それだと曲と映像のマッチングは難しくて、やっぱり先に曲があった方がやりやすいです。OPは基本的に100%曲優先で、曲を生かして映像を作るべきだと思っています。ただ、『レヴュースタァライト』の古川知宏監督とも「音に合わせすぎるのも良くないよね」って話をしていたこともありますが、僕の好みとしては、音に合わせすぎるのはあまり好きじゃないんです。でも、この曲はパーカッションとベースが強く印象に残るので、曲に合わせた方が良いと判断しました。

山下:通常、お客さんは音に合わせるべきところでは合わせてほしいと思いますよね。でも、最初から最後まで合ってると、それはそれで気持ち悪くなるので、ズラすべき箇所はズラす、そのバランスが素晴らしいと思います。小出さんに限らず、絵コンテ・演出されているみなさんに対して思うことですが、紙の絵コンテの段階で気持ちのいい間やタイミングを作って音に合わせることができていることに、いつも感心しています。

小出:今はMVを含めてカッコいい映像が世間に溢れている中、アニメのOP映像はどうあるべきか考えると、やっぱり原作と本編を立てる映像にしないといけないと思うんです。逆に言うと、そこにしか勝ち目がないですから、僕は普通のことしかやってないんです。普通と言うか、“懐かしいこと”というか。

――“懐かしいこと”というのは、どういう要素ですか?

小出:多くの人が「これはこう観ればいいんだな」と受け取り方を知っているやり方ということです。画面分割とか、普通に時系列通りにやったりとか、作り手として“ダサい”かもしれないことを敢えてやろうと思いました。前半はそうやって作り、後半のサビからは好きにやろうと思って、今っぽいこともやってみたという感じです。

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