『空白を満たしなさい』阿部サダヲは“もうひとりの自分自身” 3つの“空白”を考える

 本作のタイトル『空白を満たしなさい』の「空白」には様々な意味合いがある。1つは、徹生自身の「空白」。自分の死ぬ前の記憶が「空白」な徹生が、自分が死んだ理由を追い求めることによって、その空白を埋めようとすること。2つ目は、遺された人々の心にできた「空白」。「状況的に見て自殺」とされた徹生の突然の死に際して、妻である千佳も、母・恵子(風吹ジュン)も、彼の友人や同僚たちも、「何かしてやれることはなかったのか」と自分を責め、「なぜ死んだのか」と問い続けずにはいられなかった。

 そして3つ目は、初回の安西(渡辺いっけい)が言うところの「人が1人いなくなれば、1人分の穴が開く」ために、徹生が死んだことによって発生した、会社や家庭、社会の「空白」。彼が死後3年後に「復生者」として帰ってきたことで、人々がようやく埋めた穴を無理やりこじ開けることになり、生じた波紋についてもリアルに描いている。「死んだ人が生き返って会いにくる」いわゆる『黄泉がえり』的ストーリーはこれまで何度も映像作品を通して描かれてきたことであるが、それらの作品群と本作が一線を画するのは、この点である。

 徹生が生き返ったことに対して、初対面で素直に喜びを示した人物が権田(うじきつよし)しかいないこと。「復生者」は社会の秩序を乱す困った人々として捉えられ、街頭では排斥運動が繰り広げられる。徹生の元には、生命保険の返還要求が容赦なく届き、徹生の友人・秋吉(萩原聖人)は、彼を雇うために2人の人員を辞めさせる他なかったということがさりげなく明かされる。

 さて、この生きづらく、他者に寛容になる余裕さえ奪われる社会において、それでも「生きなきゃいけない」私たちに、千佳に、「生き返ってしまった」徹生に、果たして救いは描かれるのか。

■放送情報
『空白を満たしなさい』【全5回】
NHK総合にて、毎週土曜22:00〜22:49放送
出演:柄本佑、鈴木杏、萩原聖人、渡辺いっけい、うじきつよし、藤森慎吾、ブレーク・クロフォード、風吹ジュン、阿部サダヲほか
原作: 平野啓一郎『空白を満たしなさい』
脚本:高田亮
音楽:清水靖晃
制作統括:勝田夏子(NHKエンタープライズ)、落合将(NHK)
演出:柴田岳志(NHKエンタープライズ)、黛りんたろう
写真提供=NHK

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