『ちむどんどん』失意の歌子に訪れた運命的な出会い すっきりしない暢子たちの恋愛模様
七夕の日に放送された『ちむどんどん』(NHK総合)第64話。前話で2人きりになった暢子(黒島結菜)と和彦(宮沢氷魚)。幼なじみの2人がついにと覚悟したところで、危うい空気を救ったのは頼りになる県人会会長の三郎(片岡鶴太郎)だった。三郎は店の外にいる一同を押しとどめ、その間に暢子と和彦は平静を装う。しかし、いなかったはずの愛(飯豊まりえ)が一部始終を把握していた。
その頃、智(前田公輝)はやんばるに。帰郷の目的は野菜の買付けと結婚の報告。といっても結婚について暢子から返事をもらえたわけではなく、智の思い込みなのだが。「暢子はちょっと鈍感なところがある」と言う優子(仲間由紀恵)は智と歌子の結婚に半信半疑だが、その隣でショックを受けていたのが歌子(上白石萌歌)だった。
智が暢子と夫婦になると知らされ、放心状態になる歌子。完全な巻き込み事故である。思えば歌子は恋愛には不遇だった。幼い頃から憧れていた智は暢子しか眼中になく、それでも自分に優しくしてくれる智を慕ってきた。今は無理でも思い続けていれば、いつか振り向いてくれるかもしれない。花城(細田善彦)への恋心が無残に打ち砕かれた時も、立ち直ることができたのは歌子の心に智がいたからだ。いわば最後の砦のような存在が智で、病弱さが祟ってオーディションに落ち、仕事も辞めた歌子が幸せになれると信じるほとんど唯一の希望だった。
その希望は踏みにじられる。誰もが失恋を経験するが、歌子の場合、その衝撃は常人と比較にならない。今の歌子にとって、生きることを根こそぎ否定されるに等しいからだ。それでも、いやそういう時だからこそ運命的な出会いもある。賢三(大森南朋)の民謡の師匠だった上原照賢(大工哲弘)が弔問に訪れ、歌子の前で沖縄民謡「月ぬ美しゃ(月の美しさ)」を歌った。満月の夜に願いを託した歌を聞くうち、歌子の頬に涙がこぼれた。
「お願い。小さくていいから、うちだけの夢を追いかけてみたい」
これまでの人生で何度も音楽に救われてきた歌子が、自分の進むべき道を見出した瞬間だった。上原を演じる大工哲弘は八重山民謡を代表する歌手で、三線をつまびいて歌う姿は引き込まれるものがあった。曇り空のような恋愛模様のかたわらで、雲間から一条の光を見出した歌子を応援したい。
■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK