日曜劇場に秋元康流、考察ドラマの違いは? 『マイファミリー』のヒットから探る

 一方、『マイファミリー』は、最初から怪しそうな人物の描写を入れず、真犯人と誘拐の動機が全く分からないまま最終回へと向かう、推理要素が強いドラマとなっていた。また、物語の焦点であり安否不明の心春(野澤しおり)以外はみんな生きていることも大きな違いだ。

 日曜劇場はTBSの看板となるドラマを放送している枠で、最近は池井戸潤作品に代表される、エンタメ性が強くも硬派な作品が多く、基本的には視覚的にも倫理的にも質の高い作品が作られる枠だ。考察ミステリーの要素はあるが、誘拐を軸にした家族の愛と絆というテーマを貫いているのが今作の特徴であり、犠牲者が少なかった理由の一つかもしれない。2作品とも多重構造の誘拐ものという点では共通している。ただ『真犯人フラグ』は、それぞれの誘拐が全く別の動機だったのに対し、『マイファミリー』は、主人公・鳴沢温人(二宮和也)の友人・東堂(濱田岳)が自分の娘・心春の誘拐事件の真犯人を引きずりだすために行ったもので、4つの誘拐事件が最後は一本の線に繋がる話となっていた。

 両作品とも家族の絆を取り戻す物語だが、『真犯人フラグ』に関しては、主人公は仕事熱心で、家族思いだっただけに、なぜ異変に気づかなかったのだろうという苦しみが一つのポイントとなり、メディアを通して家族思いをアピールしたことで、逆に世間に疑われ続けるという内容となっていた。一方、『マイファミリー』の温人は、同じく仕事熱心ではあるものの、家族を顧みずに仮面夫婦状態であり、娘にも「気持ち悪い」と言われるほど愛のない家庭だったのが大きな違いだ。誘拐されたのは本人の愛情のなさも一つの理由だと視聴者に思わせ、容疑者らしき人物を見せるのではなく、家族や社員、または主人公本人の狂言誘拐の可能性も考えさせた。

 こうした考察ドラマとして人気となったのも、オリジナル脚本だということが理由に挙げられる。ミステリー作品において一番難しいのがネタバレで、原作ものだとSNS文化が発達した現代においては放送前から原作を読んでいない人でも犯人を知ってしまう危険性が高い。そんな中でオリジナル作品が作れるのが秋元の強みで、最近考察ドラマが増えたきっかけは、やはり『あなたの番です』の成功にあると思う。誰もがSNSを利用する時代となり、自身の考察でドラマに参加している気分を味わえること。また、考察ドラマは繰り返し観られることで、有料動画サイトや、公式YouTubeでの番宣やまとめ考察動画などの再生数が伸びるという点で、制作側としても美味しいコンテンツとなっている。

 『マイファミリー』もこうした時代の流れに乗ったことが、最終話が最高視聴率を記録し、有終の美を飾った理由だと考えられる。細かく観れば消化しきれていないことが多々あるが、誘拐事件を題材に1、2クールのドラマを作るという意味では、アイデアとしてはよく考えられた2作品だったように思う。みなさんはどちらが好みだっただろうか。

■配信情報
日曜劇場『マイファミリー』
TVer、Paraviにて配信中

■リリース情報
『マイファミリー』
12月7日(水)Blu-ray&DVD発売
DVD-BOX:22,990円(税込)
Blu-ray BOX:29,040円(税込)
製作著作・発売元:TBS
発売協力:TBSグロウディア
販売元:TCエンタテインメント

出演:二宮和也、多部未華子、賀来賢人、高橋メアリージュン、大友康平、神野三鈴、迫田孝也、那須雄登(美 少年/ジャニーズJr.)、山田キヌヲ、 渡辺邦斗、藤間爽子、大島美優、松本幸四郎、富澤たけし(サンドウィッチマン)、濱田岳、玉木宏
脚本:黒岩勉
演出:平野俊一
プロデューサー:飯田和孝、渡辺良介(大映テレビ)
スーパーバイジングプロデューサー:那須田淳
協力プロデューサー:大形美佑葵
音楽:大間々昂
主題歌:Uru「それを愛と呼ぶなら」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作著作:TBS
(c)TBS

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