『ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン』に込められた問題提起 アニメ業界を暗喩する側面も

 5月16日に配信された、Netflixオリジナルアニメ『ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン』。同作はWIT STUDIOによる完全新作で、監督・牧原亮太郎(『ハル』『屍者の帝国』など)、副監督・田中洋之(『進撃の巨人』など)、キャラクターデザイン&総作監・西尾鉄也(『NARUTO-ナルト-』など)と、ヒット作に携わったスタッフが集結していることでも注目を集めていた。

 舞台はある冬の時代。100年以上続く人間とヴァンパイアの戦争により様々なことが抑圧され、人間は常に軍人の監視下で貧しい生活を強いられていた。ヴァンパイアが芸術を愛するがゆえ、芸術に触れることも許されない世界に嫌気が指した司令の娘であり、主人公のモモは一人涙を流す。しかし、とある森の中でヴァンパイアの女王・フィーネと出会い、人間とヴァンパイアが共に暮らす「楽園」を探す旅に出ることになる。ちなみに、牧原監督によるとロケハン先はカレリア共和国・キジ島。作品から漂う異国の空気感も、物語を盛り上げることに一役買っている。

 そんな同作の中には、何度も人間とヴァンパイアの戦闘シーンが出てくる。人間側は武器を使い、ヴァンパイア側は人外な力や死と引き換えに身体能力を高める薬を使って、自分たちを守るために血を流しまくっている。その様子を見ると、傲慢さや騙し合い、争い……こういった良くないものがなぜ起きてしまうのか、という考えが頭の中をめぐる。実際、自分がこの状況下に置かれたら生きるために同じ行動を取ってしまうだろうし、綺麗事だとも思うのだが、徐々に友情に似た絆が芽生え始めていたモモとフィーネの心情を考えると胸が痛くなってしまうのだ。

 こうして単純にアニメを観て自分がどう思うか考えるだけでなく、同作は作品に込められたメッセージの考察も捗るアニメとも言える。例えば、5月16日放送のラジオ番組『ネトフリアニメ presents 吉田尚記のFUKABOLIX』(ニッポン放送)で、牧原監督は同作の世界感をアニメ業界になぞらえた側面もあるという旨の話をしていた。また、「アニメ業界では食っていけない」という周りの声を否定したいと思っていた若かりし頃の自身をモモ、夜に度々訪れる終わりのない負の気持ちをフィーネに反映したという。さらに、圧倒的正義に寄り添わなければならない風潮に対し、問題提起する気持ちも込めているとも。こうした制作の背景を知ることでさらに深く同作を考察していけそうだ。

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