大森南朋らが再び本多劇場に! 『ケダモノ』が生々しく描く、“寄る辺なき者たち”の物語

 下北沢・本多劇場にて、舞台『ケダモノ』が上演された。本作は、田中哲司、大森南朋、赤堀雅秋ら3人による演劇ユニットの最新作。2016年には光石研や麻生久美子らが参加した『同じ夢』を、2019年には長澤まさみ、でんでん、江口のりこ、石橋静河らが参加した『神の子』を上演し話題を集めてきた。今回は門脇麦、荒川良々、あめくみちこ、清水優、新井郁らが参戦し、私たちの息苦しい日常の延長線上にあるのかもしれない“地獄絵図”を描き出している。

 赤堀作品の特徴の一つといえば、我々の目の前に横たわる現実を生々しく舞台上に立ち上げる点である。そしてそれは多くの観客にとって、痛快ではなく不快な、言葉にし難い後味の悪さを与えるものだろう。特に本作に関しては最終的に、目を覆いたくなるような“地獄絵図”へと物語は行き着く。登場人物たちは「コロナ禍」を生きており、「東京オリンピック」というワードを口にするため、どうやら私たちと同じ世界線を生きているようだ。そのためかフィクションとはいえ、非常に大きなリアリティをともない迫ってくるものがある。開演前の客入れ時のBGMが、あいみょんやKing Gnuなど、あちこちで耳にする令和のポップスだというのも効いている。

 物語の舞台は神奈川にある田舎町で、季節は真夏。寂れたリサイクルショップを経営する手島(大森南朋)は、自称・映画プロデューサーのマルセル小林(田中哲司)とつるむ日々を送っている。従業員は終始ふてぶてしい態度の出口(荒川良々)と、やる気はあるが空回りしてばかりの木村(清水優)の二人のみ。彼らの楽しみといえば、夜な夜な飲みに出て、行きつけのキャバクラでマイカ(門脇麦)と美由紀(新井郁)らと戯れることくらいだ。そんなある日、「父が死んだので家を整理し、不用品を引き取って欲しい」という依頼が。手島たちは依頼主である節子(あめくみちこ)の家と蔵を物色しているうちに、やがて“あるもの”を見つける。そして近くの山からは銃声がーー。

 現実を反映したような物語が最悪な方向へと転がっていく本作において、絶妙なユーモアを生み出しているのが田中哲司だ。どこか胡散臭く飄々とした振る舞いを見せるマルセル小林という男を、彼は軽快に演じている。マルセルは酒に酔ってはキャバクラで女性たちに問わず語りを繰り広げ、ジャン=リュック・ゴダールの映画のワンシーンにある踊りにまで興じる。この町や周囲の者たちと同様に、寂しい男なのだ。このマルセルと夜な夜な行動をともにする手島を演じているのが大森南朋。手島はマルセルに対してはどうにも頭が上がらないようだが、一度怒り出すと歯止めが効かず、その沸点も非常に低い男だ。そんな不安定なキャラクターを、大森は安定した演技で魅せている。朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)第1週目に見せた柔らかな姿はここにはない。緊張感を強いるパフォーマンスである。

 そして本作で作・演出を務める赤堀雅秋が演じるのは、自治体からの依頼で鹿の駆除にやってきた猟師。「神の使い」とされる鹿は増えすぎ、農家の作物を荒らし、害獣扱いされている。この猟師は居酒屋経営者なのだが、コロナ禍によって経営難に陥り、ハンターの仕事を買って出たというわけである。演出も務めているため赤堀の出番は少ないが、この役は作品の転換点を作る重要な役どころ。閉鎖的で息苦しいいまの時代、誰よりも堕ちてしまった者の成れの果ての姿を作者自らが演じることで、その責務を負っているわけだ。

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