宇野維正の興行ランキング一刀両断!

「レッサーパンダ」が消えた春休み興行 『SING/シング:ネクストステージ』の独壇場に

 先週末の動員ランキングは、『SING/シング:ネクストステージ』が土日2日間で動員34万人、興収4億4300万円をあげて初登場1位に。初日から3月21日(祝)までの4日間の累計では動員61万8287人、興収7億8993万7630円と好調な滑り出しだ。2017年3月に公開された前作『SING/シング』もちょうど同時期の3連休前の金曜日に公開されたので正確な比較が可能で、オープニング4日間の成績が動員79万2833人、興収9億9390万1200円だった『SING/シング』との興収比で、今回の『SING/シング:ネクストステージ』は約80%の成績。最終興収51.1億円の大ヒットとなった前作に続いて、今作も大健闘している。

 前作『SING/シング』が北米公開から3ヶ月後、今回の『SING/シング:ネクストステージ』も同じく北米公開から3ヶ月後と、このシリーズは今どき珍しく(イルミネーションの他作品と比べても)日本公開までの期間が長め。それは、キャラクターの歌唱シーンも含む吹替をはじめとする日本向けのローカライズが周到におこなわれていることとも関係しているはずだが、そうした日本の配給サイドの努力も功を奏していると言っていいだろう。

 同じ春休み興行のアニメ作品として『モアナと伝説の海』や『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』とトップ争いを繰り広げていた5年前の前作公開時と比べて最も大きな違いは、エンターテインメント企業としての事業のプライオリティを劇場から配信(ディズニープラス)へと大きくシフトさせたディズニー配給の作品がランキングに一つも入っていないこと。本来、ディズニーは今年3月11日にピクサー・アニメーション・スタジオの新作『私ときどきレッサーパンダ』の公開を予定していて、各劇場でも宣伝展開や予告編の上映がおこなわれていたが、公開予定日から2ヶ月を切った1月13日にディズニープラスでの独占配信公開となることを急遽発表。ピクサー作品が配信オンリーでの公開となるのは、これで2020年の『ソウルフル・ワールド』、2021年の『あの夏のルカ』に次いで、3作品連続となる。

 『トイ・ストーリー』や『カーズ』といったスタジオの看板シリーズの監督を務め、長年ピクサーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めてきたジョン・ラセターが従業員からのセクハラ行為の告発を受けて2018年に退社した後も、ピクサー作品のクオリティは落ちることはなかった。いや、むしろ劇場での公開が途絶えてからの『ソウルフル・ワールド』、『あの夏のルカ』、『私ときどきレッサーパンダ』は、そのテーマにおいても芸術面においてもアニメーション作品の新たな領域を切り拓くような意欲作だっただけに、とりあえず現在も劇場公開が維持されているウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの新作の処遇と比べても、どうにも不公平に思えてならない。

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