心は逃げなかった成田凌と笑顔の森七菜 『逃亡医F』最終話に散りばめられた切なさと代償

 しかし、薬を待つ患者を本当に思うなら、ガイストのデータを公開すればいいだけの話。佐々木のエゴを、藤木は「誰かを救いたいという根源的欲求」だと言った。自分自身にもあるというその欲求を「いいものだと思わない」、卑しい考えだとさえ思うときがあると。それでも、飛び降りた佐々木を前に、「救いたがり」の藤木は迷わない。警察が止めようとも、救えるのはこの天才脳外科医しかいない。

 術中のBGMは、西城秀樹の「若き獅子たち」。

〈太陽に向かい歩いているかぎり 影を踏むことはない そう信じて生きている〉

 本作の主題歌「太陽が見ている」の一節、〈太陽にばれないように うつむいて歩く〉と、対比する歌詞にも思える。〈あなたにもそれを分からせたいけど〉「若き獅子たち」と続く歌詞に、分かり合えない天才同士が重なる。

〈逃げますか それとも行きますか〉「太陽が見ている」

 冤罪を晴らすべく、ひととき藤木は逃亡者となった。けれど、心は逃げなかった。太陽に恥じるようなことは何一つしていないから。目の前の命にも誠実であり続けた藤木は今、無実も、恋人も、その手に取り戻した。


 しばしの別れを前に、藤木は妙子を抱きしめる。こんなときでも、美香子は切なく微笑む。藤木のすべての行動は愛する人のためだと分かっていたけれど、美香子が出会った藤木は「亡き愛する人」を想っていたはず。それでも、妙子が生きていたこと、元気になっていく姿を喜ぶ美香子は、健気で愛おしい。拓郎が、別れ際にハグをした気持ちも分かる。

 平和な暮らしを取り戻した藤木と妙子だったが、ガイストの副作用が明らかになっていく。記憶を引き出す能力に支障が生じ、とりわけ「楽しかった記憶」が、思い出せなくなっているのだと。

 それでも、美香子との出会いは鮮明に覚えている藤木。逃亡生活であったのだから、楽しかったわけではないだろうがーー美香子は、藤木のなかにある「忘れてくれている思い出」を見つけ、嬉しくなる。自分との思い出を全部、忘れてくれたら幸せだろうかと、ふと考えてしまう美香子の想い。誰も、美香子さえ言葉にしなかったが、きっと藤木への感情には恋に近いものがあっただろう。大団円とはならないラストこそ、忘れられないものだ。旅立ち前の拓郎、思い出せなくなるかもしれない日々を積み重ねていく藤木と妙子、2人を見つめる美香子の少し切ない笑顔が、どうにも消えていかない。

■放送情報
『逃亡医F』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜放送
出演:成田凌、森七菜、桐山照史(ジャニーズWEST)、桜庭ななみ、堺小春、古屋呂敏、和田聰宏、酒向芳、前田敦子、安田顕、松岡昌宏
原作:『逃亡医F』(Jコミックテラス刊)(原作:伊月慶悟、作画:佐藤マコト)
脚本:福原充則
演出:佐藤東弥、大谷太郎ほか
音楽:今堀恒雄
チーフプロデューサー:三上絵里子
統轄プロデューサー:荻野哲弘
プロデューサー:藤村直人、本多繁勝
協力プロデューサー:吉川恵美子、阿利極
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/toubouif/
公式Twitter:@touboui_ntv

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