Netflix映画『モラルセンス』が描く、受容の物語 BDSM作品としての懸命さも

 さて、こういった“間違い”と指摘されたような点を、『モラルセンス』は正しく、非常に丁寧に描こうとしたように感じる。大前提として、両者は最初からお互いに恋愛感情を抱いていない(かわいいな、程度には思っている)。そして仕事ぶりを含め、1人の人間として尊敬し合っている部分が双方の向け合う感情の根底にあるのだ。なお、性行為も必須ではないため行わないとし、無知識のジウが自分で勉強し、納得できるものを彼女のペースで始めるようになっている。そして重要なのは彼女も彼女なりにこの関係を楽しんでいること、そして2人が信頼関係を築く過程に焦点が当てられて物語が進んでいく部分にあると思う。

 なにより、本作はBDSMをはじめとする、いわゆる人に言いづらい性的嗜好を“悪”や“病理”として描かない。それを、その人のアイデンティティーの1つとして捉えたヒューマンドラマになっているのだ。だから、「克服」がゴールではない。映画の中には、ジフの性的嗜好をトラウマ的に批判し、精神的な攻撃をする人間も登場する。その人間と対峙したジフの辛さ、悲しみを余すことなく映すことで、誰かの性的嗜好に後ろ指をさすことの意味、さされた側の受ける影響や人格否定の苦痛が理解できるようになっている。それを描くことは本当に重要なことだし、やはりそういった点でも本作は決して肉体的なものではなく、精神的なものをテーマにしていることが窺える。一見えっちなラブコメの皮をかぶっているが、その奥にある本作のテーマは生きづらさを抱える本人が自分を「受容」すること、そして自分と違う他者を「受容」することなのだ。

 また、劇中には、サブの女性キャラクターがBDSMの関係をアプリ上で求めて初めて会った相手とホテルに行くシーンがある。しかし、その相手の男性は彼女の同意を得ずに、彼女が“マゾだから”と、殴ったり痛めつけたりしていいと勘違いする偽物ドムだったのだ。それは、単なるレイピストである。どんな関係性でも、同意が必須であることをこのシークエンスを用いて本作は改めて我々にリマインドしてくれる。

 「同意」、そして「受容」。性交渉というものが、改めて1人ではなく2人によるものだと、その最も大切なことをラブコメのタッチで見やすく、しかし深く丁寧に本作は主張するのである。新しい視野と発見を得られる挑戦作だ。

■配信情報
『モラルセンス ~君はご主人様〜』
Netflixにて独占配信中
監督・脚本:パク・ヒョンジン
出演:ソヒョン、イ・ジュニョン

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