『カムカムエヴリバディ』川栄李奈の最高の笑顔が眩しい　近づくひなたと五十嵐の心の距離

　『カムカムエヴリバディ』（NHK総合）第82話で、ついに敵役オーディションが始まった。決めるのは2代目・桃山剣之介こと団五郎（尾上菊之助）を主演に再映画化となる『妖術七変化！隠れ里の決闘』の小野寺左近役。1000人の応募から最終選考に残った50人で行われる殺陣の組み合わせは「五十嵐（本郷奏多） × 虚無蔵（松重豊）」というまさかの師弟対決に。柱の陰でひなた（川栄李奈）がじっと見守る中、2人の胸中には左近役への強い思いがあった。

　虚無蔵は初代・桃山剣之介を主演に映画化された『妖術七変化！隠れ里の決闘』で左近役を務めた。大部屋俳優からの大抜擢。しかし、その裏には剣之介と団五郎親子を巡る、様々な思惑が混在している。一度、すみれ（安達祐実）から噂レベルで話されているため少々複雑化しているが、当の本人である虚無蔵から五十嵐とひなたに明かされる真実は、映画を大事にする時代劇の銀幕スター・初代モモケンと活躍の場を映画からテレビの『棗黍之丞』シリーズに移した団五郎との価値観の違い。

　本来『隠れ里の決闘』は仲違いしていた親子を共演させ仲直り、その流れで映画を当てるという条映のもくろみだったが、映画を見限った団五郎を父・剣之介は許しはしなかった。生前の剣之介は当時可愛がっていた虚無蔵を左近役に選んだ。そこには無名の大部屋俳優を抜擢するという、団五郎に向けた一世一代の当てつけも含まれていた。興行としても大コケし、酷評された『隠れ里の決闘』。演技の経験もほとんどなく未熟だった虚無蔵は剣之介の恩に応えることができなかったことをずっと後悔していたのだ。虚無蔵にとって、今回の『隠れ里の決闘』はリベンジ作という思いもきっとある。

　虚無蔵といえば、時代劇からそのまま飛び出してきたかのような着流し姿に侍言葉だが、そこには日々鍛錬を忘れぬためという極端すぎる理由がある。だが、この語りの中では（長ゼリフだからか）ひなたも驚きの現代語に。「オーディション」「NG」と横文字もバンバン飛び出すが、途中で我に返ったように侍言葉に戻る虚無蔵がなんとも愛らしい。

　自分に与えられる死体役でもありがたい大部屋俳優の下っ端である五十嵐にとっては、オーディションを受けない理由はなかった。「時代劇俳優になる」と東京の家を飛び出してきた五十嵐。「後先考えないくらい夢中になれるものを見つけたから。あのでっかいスクリーンの真ん中で世界一かっこいい大立ち回りを俺はしたい。それが俺の夢なんだ」ーー自分をスターの器だと信じ、夢に向かってまっすぐ生きる五十嵐を、ひなたは自分でも気づかぬうちに応援していた。