映画は短いほうがいい? サリー・ポッター監督が語る『選ばなかったみち』製作秘話
「わざわざ何時間もかけて物語を伝える必要はない」
ーー1つ気になったのが、映画の尺です。この作品は86分と非常に短く、振り返ってみると、監督の作品は長くても2時間なかったりと、どれも短いですよね。昨今は特にハリウッドのフランチャイズ映画など、2時間〜3時間あるのが当たり前になってきていますが、この短さは意識的なものなのでしょうか?
ポッター:実は、尺についてはものすごく意識しています。人生において、映画を観るという時間や何かをする時間というのが、すごく膨張してしまっていて、必要以上に時間をとられているんじゃないかと思うんです。人生は短いのに(笑)。俳句や詞など、限られた情報量で、たくさんのことを伝えられるものもあるわけで、わざわざ何時間もかけて物語を伝える必要はないのではないでしょうか。長いが故に、観客が集中できなくなって、飽きてしまうことだってあると思います。皆さんご存知のように、もともと映画は90分ぐらいがいいのではないかと、古典的な考え方がずっと存在してきています。そう言われるのには理由があるんじゃないかと私は考えています。とはいえ、12時間あるような、ものすごく長い尺の映画で好きなものもあります。そういうものは、90分ぐらいの映画とは違った体験として私は楽しんでいますが、昨今作られているような、ちょっと長いなと思うような作品は、“ハサミ”の出番なんじゃないかなと(笑)。カットしたほうが、より良い作品になるんじゃないかなと、正直思ったりすることもありますね。
ーーなるほど、とても理解できる考え方です。この作品は86分ということもあり非常に観やすい一方で、ラストシーンがかなり独特で、余韻を残す終わり方になっています。そこで『選ばれなかったみち』という、この作品のタイトルに立ち返るわけですが、監督ご自身は、過去を振り返って「あのときこうしていれば……」と思うようなことはありますか?
ポッター:実は、私自身はあまり過去を振り返らない人間なんです(笑)。常に、この先にどんな道があるだろうと考えているタイプなのですが、音楽に関することは少しあるかもしれません。“選ばなかったみち”ではなく、20代の頃は実際にやっていましたし、この映画でも自分自身でスコアを書いているのですが、パンデミックになってからは映画を作ることができなかったので、ロックダウン中はずっと作曲や音楽作りをしていて、当時の感覚に戻ったような気持ちがありました。音楽も映画もそうですが、ダンスや振り付け、物書きとしてもいろいろなものを作ってきているので、自分が“選ばなかったみち”というものはあまりないなと思っているのですが、今こうやって日本から取材していただいているということで、日本をはじめ自分の国とは違う文化のある都市で、長いスパンで暮らしてみたいなという思いを若い頃から持っていたことを思い返しました。ずっとロンドンに住んでいて、パリに住んだこともあるのですが、他の国に行って、いろいろな文化や人と出会うのが好きなので、自分の国とは違う国の文化に長期間、自分の身を置くということは、今後やってみたいことではありますね。
■公開情報
『選ばなかったみち』
ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
監督・脚本:サリー・ポッター
出演:ハビエル・バルデム、エル・ファニング、ローラ・リニー、サルマ・ハエック
配給:ショウゲート
2020年/イギリス・アメリカ/英語/86分/カラー/スコープ(シネスコ)/5.1ch/原題:The Roads Not Taken/日本語字幕:稲田嵯裕里/G
(c)BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020