主演男優賞

ハビエル・バルデム『愛すべき夫妻の秘密』
ベネディクト・カンバーバッチ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
アンドリュー・ガーフィールド『tick, tick…BOOM!：チック、チック…ブーン！』
ウィル・スミス『ドリームプラン』
デンゼル・ワシントン『マクベス』

主演女優賞

ジェシカ・チャステイン『タミー・フェイの瞳』
オリヴィア・コールマン『ロスト・ドーター』
ペネロペ・クルス『Parallel Mothers（原題）』
ニコール・キッドマン『愛すべき夫妻の秘密』
クリステン・スチュワート『スペンサー ダイアナの決意』

助演男優賞

キアラン・ハインズ『ベルファスト』
トロイ・コッツァー『コーダ あいのうた』
ジェシー・プレモンス『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
J・K・シモンズ『愛すべき夫妻の秘密』
コディ・スミット＝マクフィー『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

助演女優賞

ジェシー・バックリー『ロスト・ドーター』
アリアナ・デボーズ『ウエスト・サイド・ストーリー』
ジュディ・デンチ『ベルファスト』
キルスティン・ダンスト『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
アーンジャニュー・エリス『ドリームプラン』

　主演部門にはバルデムとクルス、助演部門には対象作で共演もしたプレモンスとダンストと、二組の夫婦が同時ノミネートを果たした今年。しかもカンバーバッチとガーフィールド、シモンズにダンストと『スパイダーマン』関係の俳優が揃い、サプライズノミネートを成し遂げたプレモンスとバックリーは、昨年有力視されながらシャットダウンされた『もう終わりにしよう。』のコンビと、20人の候補者のつながりを探していくだけでもおもしろい顔ぶれだ。

　主演男優賞は昨年に引き続き、重要な前哨戦である俳優組合賞の5枠と完全に一致。作品の勢いも考えるとカンバーバッチとスミスの一騎打ちのムードが強い。対照的に主演女優賞は大混戦。受賞経験者3人と、10年で3度目の候補となったチャステインに、メガヒット作をもつスチュワートと、まさにスター女優揃い。『ハウス・オブ・グッチ』のレディー・ガガが落選したことはかなりショッキングな出来事ではあるし、元々作品賞とリンクしづらい部門とはいえ1作品も作品賞と合致しないのは第78回以来16年ぶりのことだ。俳優組合賞落選から復活したスチュワートの勢いを買うか、GG賞を制したキッドマンの実績を買うか。案外チャステインが逆転する可能性も高いのではないだろうか。

　助演部門はサプライズが目立つ。シモンズとプレモンス、デンチとバックリー。いずれも前哨戦で存在感を示しながら、あと一歩届かないだろうと思われていたが本番で大逆転を果たした。シモンズの場合は主演キャスト2人も候補入りをしていることから作品のアンサンブルが讃えられてと考えるが、肝心の作品賞から落ちてることを考えるとやっぱり『スパイダーマン』効果もあるのだろうか。プレモンスは明らかに作品の勢いであり、バックリーは主演部門のコールマンの若き日を演じて候補入りとコールマンの主演部門受賞の追い風と考えることができる。

　とりわけ驚きが大きかったのはデンチである。実績を考えればノミネートに何の驚きもないのだが、対象作であるケネス・ブラナーの自伝映画では母親役のカトリーナ・バルフの方が前哨戦の評価は高かった。祖母役のデンチが逆転したのは知名度だけでなく、実際に作品を観てみればよくわかる。白黒撮影は祖母のアップショットで顔の皺のコントラストをより印象的に見せるためのものとして機能し、舞台となるベルファストという街の物語を彼女の役柄がすべて請け負う。祖父役を演じたハインズが危なげなく助演男優賞入りを果たした以上、デンチの評価が高まるのも納得できよう。

　ここで受賞の可能性を持つのは、助演男優賞では静かな怪演を見せたスミット＝マクフィーであり、プレモンスとの票割れが起きればコッツァーの逆転も考えられる。助演女優賞は前哨戦通り『ウエスト・サイド・ストーリー』で大女優から役を継承したアリアナ・デボーズか、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の勢いが加速すればダンストの悲願もあり得そうだ。