『わげもん』全4回を通して描いた“言葉”の重要性 永瀬廉の紛れもない代表作に

 通詞としての矜持。さらには、殺された周吾と境遇が被ることも、森山の中には壮多を引き止める理由にあるのではないだろうか。ただ、それらが全て綺麗事だという神頭の言い分ももっともだ。漂流民として地獄を見てきた神頭は、人一倍生きるための言葉の必要性を知っている。下等なわけがない、卑しいはずがないと壮多は神頭の存在も肯定してみせるが、そこで船は大きく揺れ彼らは散り散りとなっていく。

 時代の変わり目にある時代劇は、動乱の中にある現代性がそのまま作品のメッセージとなり得るが、筆者が『わげもん』を通じて感じたのは、言葉とは人と人を結ぶ架け橋にも、変幻自在の武器にもなるという普遍的な事実。権力によって隠蔽された過去、異国との交易を重ねる特異な町・長崎。そこには様々な要素が複雑に重なり合っているが、演じる永瀬廉もまたインタビューの中で「どの時代でも、言葉で何か思いや気持ちを伝えるというところは共通して大事だなと思います」(参照:永瀬廉&小池徹平は通詞をどう演じた? 『わげもん』を通して得た言葉の大切さ)と話している。

 第4話のタイトルは「光さす海」。壮多が長崎を出ようと乗り出した船の先は暗闇に立ち塞がってしまったが、彼は通詞になることを志す。長崎という町で。壮多が浜辺から眺めた海は、彼の新たな決断を後押しするように光輝いていた。

 全4話という短い物語ながら、中心にあったのは主演・永瀬廉の演技である。牢獄の中で絶望を見た瞳に、ラストは新たな希望を抱き海を見つめる。高嶋政宏、武田鉄矢といった重鎮とも物怖じせずに渡り合っていく、繊細でいて気迫溢れる佇まい。「永瀬廉は確かにここにいた」ーーそう言い切りたくなるほどに、『わげもん』は永瀬にとっての代表作となった。

※高嶋政宏の「高」ははしごだかが正式表記。

■配信情報
土曜ドラマ『わげもん~長崎通訳異聞~』
NHK+にて1週間配信中
出演:永瀬廉(King & Prince)、小池徹平、久保田紗友、浅香航大、トラウデン都仁、平山祐介、宮川一朗太、浦浜アリサ、村雨辰剛、高嶋政宏、本田博太郎、矢島健一、石黒賢、武田鉄矢ほか
作:宮村優子
音楽:森悠也
制作統括:内田ゆき
演出:盆子原誠、梛川善郎
写真提供=NHK

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