『あんのリリック』『殺意の道程』など 安定した脚本力で魅了するWOWOWドラマ

 重厚な社会派ドラマや、地上波ドラマでは見られないようなスリルを持ち合わせたサスペンスなど、比較的硬派な作品のイメージが強いWOWOWのオリジナルドラマ。それらのクオリティの高さを支えているのは、映画的なルックや安定した演出力はもちろんのこと、やはり良質な脚本である。ここであえて、硬派な作品群とは対照的にポップなテイストの作品に目を向けてみると、その脚本力をより一層感じ取ることができよう。楽な気持ちで観はじめて、いつの間にかその作品世界に引き込まれていくことこそ、ドラマ作品の醍醐味だ。

 2021年2月に放送された『ドラマWスペシャル あんのリリック -桜木杏、俳句はじめてみました-』は、まさにそんな醍醐味が存分に発揮された秀作である。俳人・堀本裕樹の青春小説を、『パパとムスメの7日間』(TBS系)や『プリティが多すぎる』(日本テレビ系)、アニメ映画『ポッピンQ』などを手掛けた荒井修子が脚本を手掛けた。ラップの“リリック”を考えることが生きがいの内気な芸大生が、ひょんなことから俳句の世界に触れ、内に秘めた想いを言葉を介して解放していく姿が描かれていく。

『ドラマWスペシャル あんのリリック -桜木杏、俳句はじめてみました-』

 本作で主人公の桜木杏役を演じているのは広瀬すず。代表作である『ちはやふる』シリーズでは百人一首の世界に没頭していく女子高生を演じていた彼女が、本作ではまたしても日本の伝統的なカルチャーに触れて前向きに変わっていく様を体現。5・7・5・7・7の世界から5・7・5の世界へ。限られた文字数の中で想いを紡ぐいにしえの言葉遊びと広瀬の演技との親和性はもはや疑いようはなく、そこに新たに現代の言葉遊びたるラップの文化や、動画配信といった現代のメインカルチャーが融合していくという妙味たっぷりの脚本が作品の魅力を高めていく。

 とりわけ物語の主題となっている以上、“言葉”に対する愛情がラップや俳句という要素の一環としてではなく真正面から描かれていることに魅力を感じずにはいられない。器用に重ねられていくオーソドックスな青春ラブストーリーの様相と、耳に残る言葉の数々。前後編共に1時間半ほどで、まるで2本の映画を観たような充足感を味わえることだろう。

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