小学校ドラマは時代を映す鏡?  『熱中時代』から『二月の勝者』までを辿る

 『二月の勝者-絶対合格の教室-』(日本テレビ系、以下『二月の勝者』)が最終回を迎えた。中学受験のための学習塾を舞台にした作品だが、主人公の黒木蔵人(柳楽優弥)、佐倉麻衣(井上真央)をはじめとした学習塾の講師たちは、子どもたちの成長をうながし、メンタルをケアし、時には越権行為とエクスキューズを入れつつ問題のある家庭に介入していた。中受(ちゅうじゅ)をする子どもと家庭にとって、いまや学習塾は学校よりも重要な空間になりつつある。

 『二月の勝者』は、2021年現在、関東地方の小学校(というか、小学生の子を持つ親の間)でヒートアップし続ける中受熱という現実をすくいとったドラマだった。と同時に、これも一種の「学園ドラマ」だったと感じる。

 テレビドラマは時代を反映するものだが、なかでも学園ドラマは時代をくっきりと映し出す。学園ドラマといえば、『3年B組金八先生』(TBS系)のような中学校が舞台の作品、『ドラゴン桜』(TBS系)のような高校が舞台の作品が多い印象を受けるが、小学校が舞台の作品もけっして少なくはない。ここでは小学校を舞台にした学園ドラマのうち、代表的なものを取り上げ、どのように時代を映し出していたかを見てみたいと思う。

 小学校ドラマの金字塔とも言えるのが、水谷豊主演の『熱中時代』(1978年〜1981年/日本テレビ系)だ。それまで学園ドラマといえば『青春とはなんだ』(1965年〜1966年/日本テレビ系)など高校を舞台にした作品が多く、小学校の教師を主人公にした作品は非常に珍しかったが、最終回の視聴率が46.7%を記録する大ヒットとなった。70年代後半は小学生のいじめや登校拒否などの問題が顕在化しつつある時期である。

 これまでアウトロー役が多かった水谷豊が、失敗を繰り返しながらも子どもたちにとことん寄り添う真面目で朴訥な青年教師・北野広大を熱演。得意なことを聞かれると「物事に熱中することです!」と大声で答え、「学校というのは、人間の心の美しさを教えるところだよ」と大真面目に語る教師像は、「シラケ世代」と呼ばれた当時の若者たちへのアンチテーゼでもあった。この後の小学校ドラマの教師たちの多くは、『熱中時代』の強い影響下にあると言っていいだろう。

 80年代に大ヒットした小学校ドラマが、『うちの子にかぎって…』(1984年/TBS系)である。二枚目スターだった田村正和が初めてコメディドラマに出演したことで話題となった。バブル直前の明るくてアッパーな世相が反映されており、両親の離婚などはあるものの、シリアスな面は極力抑えられていた。

 登場するのは、もはや素朴さのかけらもなく、異性のこととお金のことと芸能界のことで頭がいっぱいの一筋縄ではいかない子どもたちばかり。刺激的な描写も多く、第1期ではクラスのアイドル的な存在の少女(磯崎亜紀子)がヌードモデルになろうとして芸能界志向の両親(斎藤晴彦、木野花)を困惑させたり、スペシャルでは小学生同士(高橋良明、西尾まり)のキスシーンも描写されたりした。主人公の石橋先生は子どもたちに慕われているものの、子どもたちと強く指導したり人生に影響を与えたりしないのが特徴だった。これは先生が生徒に説教を繰り返していた『3年B組金八先生』の反動だったのかもしれない。

 余談だが、このドラマはメタフィクショナルな仕掛けが多く、スペシャル第2弾は出演を渋る田村正和にプロデューサーの八木康夫や脚本の遊川和彦が土下座をして懇願するというオープニングで、仕方なく所ジョージが田村正和のモノマネで授業を始めるというものだった。同スペシャルでは『風雲!たけし城』(TBS系)のアトラクションに挑戦する田村正和という珍しいシーンも見ることができる。

 80年代に大ヒットした、もう一つの小学校ドラマが『教師びんびん物語』(1988年/フジテレビ系)。トレンディドラマブームの最中に作られた作品であり、田原俊彦と野村宏伸の軽妙なかけ合いが印象的だが、実はストーリーはシリアス。大人たちが強いる理不尽なルールや環境に苦しむ子どもたちに真正面から向き合い、寄り添う主人公の熱血教師・徳川龍之介の姿が人気を集めた。

 「俺たち教師が子どもたちに教えてやれるとしたら、それはたった一つのことだけだ。愛だよ、他に何がある?」と真顔で青臭い理想と正論を語る教師像は、バブルの狂乱のまっただ中で視聴者に新鮮に響いたはずだ。パート2のクラスには観月ありさがいた。

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