『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』にみえた“エウレカセブンらしさ”の正体

 『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』でも、多くの作品の引用が散見された。わかりやすいのは冒頭の描写で、戦闘描写からは『新世紀エヴァンゲリオン』のヤシマ作戦であったり、あるいは『シン・ゴジラ』などの庵野秀明作品を連想させる。また終盤の展開などは『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を連想したという意見もネット上では多く指摘されている。

 その他にも中盤では実写洋画を引用しているだろう。『ターミーネーター2』の戦闘員と子供が謎の敵に追われる展開であったり、あるいはフレンチトーストを通してエウレカとアイリスの関係がうまくいっていないことを示すシーンは『クレイマー、クレイマー』の印象に残る場面の引用だろう。こういった数々の引用が本作の中でなされていた。

 では、なぜ今作は引用を重ねたのだろうか。その答えは、メタ的な意味も含めて「エウレカセブンとは何だったのか?」というテーマに言及したからだと思われる。作中で何度も繰り返される「夢と現実」の対比は、そのまま「創作と現実」あるいは「アニメと現実」ということもできるだろう。京田知己監督はパンフレットの中で「単純に現実と仮想を区別するのではなく、むしろ現実と仮想がどこかで繋がっているということのほうを本作では明示したかったんです」と語っている。

 これだけ引用を重ねたことで、本作のモチーフになった作品は明確に提示され、その物語性、あるいは仮想性はより強固なものになる。そして『エウレカセブン』シリーズらしいレントンとエウレカの大きな物語が展開され、物語は佳境を迎える。それを見守っていた次の世代のエウレカとして目覚めたアイリスは「私もエウレカになる!」と高らかに宣言する。

 多くの作品の影響を受け、何がオリジナルなのかもわからないほどに引用を重ねても、それでも残るこの力強い宣言こそが『エウレカセブン』という物語の核心なのだろう。そしてそれは『エウレカセブン』という物語を愛してきた人々に対して、その物語と現実をつなぐ一言でもあるはずだ。

 最後に、本作が描いたエウレカの姿に対しても、進歩的なものが多かったと指摘しておきたい。かつての『エウレカセブン』の中のエウレカは、レントンに守られるだけの存在であり、ある種のお姫様であった。今作ではそのレントンを失ったこともあり、アイリスを守る一流の戦闘員として力強く戦う姿が提示されている。これまでのエウレカ像を壊し、新たな現代風の戦うヒロインとして再解釈され提示されたことを、高く評価したい。

 『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』というシリーズは、過去作の引用を重ねてはいるものの、その脱構築によってキャラクターは変化し、むしろ過去作のイメージを一部否定しているように見えるかもしれない。ファンであればあるほど、それは耐え難いものかもしれない。だが、その先に見えた“エウレカセブンらしさ”の正体こそが、本作が他のシリーズとは一線を画す、物語の根本的な問いに言及した作品となったのではないだろうか。

■公開情報
『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』
公開中
声の出演:名塚佳織、遠藤璃菜、小清水亜美、森川智之、根谷美智子、宮野真守、水沢史絵、小杉十郎太、久川綾、佐々木敏、下野紘、豊口めぐみ、沢海陽子、三木眞一郎、銀河万丈、千本木彩花、潘めぐみ、瀬戸麻沙美、M・A・O、嶋村侑、諸星すみれ、三瓶由布子、山寺宏一
監督:京田知己
脚本:野村祐一、京田知己
原作:BONES
音楽:佐藤直紀
主題歌「Eureka(feat. kojikoji)」変態紳士クラブ(TOY’S FACTORY)
アニメーション制作:ボンズ
製作:バンダイナムコアーツ、バンダイナムコセブンズ、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、ボンズ、サミー、MBS
配給:ショウゲート
(c)2021 BONES/Project EUREKA MOVIE
公式サイト:eurekaseven.jp

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