『最愛』で思い出す『Nのために』 コアなドラマファンから支持が厚い理由は?

 スマートフォンが普及し、SNSが栄えた現代では、“ながら”観できる作品が増加の一途をたどっている。Twitterでつぶやき“ながら”、友人とLINEでやり取りし“ながら”でも、内容を理解することができるような。ただ、やはり「名作」と呼ばれる作品は、“ながら”観できないものが多い。『Nのために』も、そのひとつだ。じっくりと考えながら視聴しないと、登場人物の真意が読めない。一語一句、逃さないように聞くことを求められる。そして、最後まで観てもなお、「なぜ?」が頭のなかをループする。直近の映画では、『花束みたいな恋をした』もそうだった。いつまでも、掴ませてくれない。あの台詞の意図は? もしや、こういう意味だったのでは? とずっと考えてしまう。

 『Nのために』も、視聴者への“宿題”をたくさん残した作品だ。とくに、杉下の“N”は、成瀬と安藤(賀来賢人)どちらだったのか? 問題は、さまざまな意見が交錯している。“罪の共有”をしたのは成瀬だが、自分を犠牲にしてでも守りたいと思ったのは、安藤。すべてを描かないからこそ、人によって捉え方が異なるのが面白い。作品の感じ方は、人それぞれで、そこには絶対的な答えなど存在しない。だからこそ、楽しい。『Nのために』は、物語を読み解く楽しさを教えてくれるドラマだった。

 サスペンスやミステリー作品は、黒幕が分かった時に、ゾワッとするものが多い。だが、『Nのために』はちがった。誰かを愛する気持ちは、こんなにも強く人を突き動かしてしまうのか。罪を犯してでも、愛する人を守りたいと思ってしまうほどに。究極の愛とは、人を“silly”にしてしまうものなのかもしれない。それでも、その力をかけるベクトルが、少しでもちがっていたら……そう思い、苦しくなった。

 『Nのために』の真相は、あまりにも切ない。『最愛』でも、ハッピーエンドは望めないのかもしれない。だが、梨央や大輝、そして加瀬(井浦新)が、少しでも“光”を感じられるラストになってほしいと願う。

■放送情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
編成:中西真央、東仲恵吾
主題歌:宇多田ヒカル「君に夢中」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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