『カムカムエヴリバディ』西田尚美が演じた新たな母親像 過去出演作から比較

 そして、あからさまに不自由で不幸ではなくとも、どこか満たされずどうしたって不足を抱えた女性役も続いている。『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレビ東京系)では、穏やかで真面目な夫・二葉さん(森山直太朗)とのほんの少しのボタンのかけ違いから、年下男性との逃避行に走ってしまう聖役を熱演し、簡単には割り切れない女性の苦悩を繊細に見せてくれた。現在放送中の『スナック キズツキ』(テレビ東京系)第6話でも、息子の大学受験合格を機に自分自身の役目まで終えてしまったかのような虚無感に苛まれ、ある種燃え尽き症候群を発症するタワマン住まいの専業主婦・香保役を演じた。

 淡々と日常生活を営みながらもどこかに小さな諦めや失望を滲ませ、そのほんの一瞬の隙やほころび、思わずため息が出るような空虚さを言葉にせずとも表情や視線、ちょっとした所作でリアリティを持って立ち上らせる。

 自分自身でも持て余してしまい、飼い慣らしきれないやり場のない思いや矛盾とどうにかこうにか折り合いをつけながら共存していく他ない局面は誰にだって多かれ少なかれあることだろう。物分かりの良いふりや平気な顔をしながらも、実際には自分で自分に幻滅し、自身のことを許せず少しずつ傷つけ続けてしまう。そんな自分自身からの“逃れられなさ”を西田はあまりに魅力的に役柄に投影して見せてくれる。泥臭くも汗臭くもないし、オーバーではないどころかどちらかと言えばポーカーフェイスな人物にとてつもない“人間臭さ”“人間味”が透けて見えるのが西田の演技の不思議な魅力の1つだと言える。その役柄が蓋をして見ないようにしている感情にこそ、本当の願望が浮き彫りになり印象づけられるのだ。

 だからこそ、こんなにも素直に他意なくどストレートに感情表現をする本作での小しず役は、西田がここのところ他作品で見せていた表情とは180度異なる。何も気負っておらず自然体で柔和で優しくあったかい。小さな幸せも見逃さず、満たされていて家族への愛情も揺るぎない。また彼女の俳優としての新たな一面に触れられた気がする。

 第4週の予告編では戦火に見舞われ、逃げ惑う人々の姿が見られた。どうか大切な人たちが無事でありますように……。祈りながら固唾を飲んで見守るほかなさそうだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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