山下智久主演リメイクで話題 日本でヒットしなかった『建築学概論』が今も愛される理由

 先日、山下智久主演で制作が発表されたNetflix映画『恋に落ちた家』。2012年に韓国国内で観客動員数400万人を記録し、当時の韓国ラブストーリー映画の新記録を打ち立てた『建築学概論』を、日本を舞台にリメイクするというわけだ。韓国では“初恋シンドローム”と呼ばれる社会現象を巻き起こした同作だが、2013年5月に公開された日本では、お世辞にもヒットしたとは言い難い興行となった。無論それは、韓国映画に限らずあらゆる外国映画が日本で経験してきたことであり、さほど驚くことではない。それでもなぜ、いま『建築学概論』をリメイクするのだろうか。

 そもそも韓国映画、ないしは韓国ドラマを日本でリメイクするという流れは、日本でいわゆる韓流コンテンツが大ブームを起こした2000年代から頻繁に試みられてきたことである。『猟奇的な彼女』や『マイ・ボス マイ・ヒーロー』はテレビドラマに、『怪しい彼女』や『サニー 永遠の仲間たち』は作中に込められた韓国カルチャーを器用に日本のカルチャーに落とし込むかたちでリメイクされ、最近ではテレビドラマ『彼女はキレイだった』がかなり忠実にオリジナルをなぞるかたちでドラマリメイクされた。まず初めに言えることは、『パラサイト 半地下の家族』を機に韓国映画の国際的評価が急激に高まっていること、Netflixなどでの韓国ドラマブームもこの上ないほど活気づいていること、そして映画・ドラマともに日本での人気が一層の高まりを見せていることなどから考えるに、今後韓国コンテンツの日本リメイクはさらに増えていくのであろう。

『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 その上で、大きな課題となるのは“リメイクをする意義”と“ローカライズ”に他ならない。一時期ハリウッドでもリメイク映画が頻発した時期があったように、アイデア不足というのは往々にして起こりうるものなのは、これだけ作品が量産される現代においては致し方あるまい。それでも、漫画の実写化以上に、既存の映画作品の映画リメイクというのはキャストやロケーションといった視覚的なイメージからストーリーテリングの手法にいたるまで、映画という同じ器の中に移し替える作業になるだけに、優れた作品を作るための難易度は極めて高い。

 参考として挙げたいのは、『建築学概論』の数年前にアジア圏で大ブームを起こした台湾製の初恋映画である『あの頃、君を追いかけた』だ。日本でリメイクされた際、キャストの魅力を引き出すことに注視されすぎるあまり、作品解釈の部分はおろか制服デザインや風景などのローカライズがあまりにも杜撰となり、結果的に作品としての魅力が後退してしまっていた。いくら文化背景が近い国といえども、描かれる時代や扱われるカルチャーなどのローカライズがきちんとなされ、同時に「いまその映画を移し替える意味」がわかるものでなければ、単なるアイデア不足に託けたものとなってしまいかねないのである。

 さて、『建築学概論』がどのような映画であったかをまずおさらいしておきたい。建築士として働くスンミン(イ・ジェフン)の前に、ある日ソヨン(ペ・スジ)という女性が現れる。彼女は済州島にある実家の建て替えを彼に依頼するのである。それは、かつて2人が交わした約束だった。15年前、大学1年生の頃に2人は、建築学科の授業「建築学概論」で一緒になる。音楽学科のソヨンは好意を寄せる放送部の先輩に誘われその授業を取っており、たまたま同じ地域に住んでいたスンミンと一緒に課題に取り組むこととなり、2人は徐々に距離を縮めていくのである。

 あまりに簡潔に言ってしまうと、初恋の相手との再会をきっかけにして忘れかけていた懐かしい記憶を呼び起こす男女の物語であり、驚くほど映画的かつドラマチックな事件は発生しない。奥手なスンミンはソヨンに好意を抱くも、彼女が先輩を好きなんだと思い込んだまま自分の気持ちを伝えることができず、離れ離れになる。15年経って再会した時は、彼女にとって人生の苦さを知った直後であり、彼にとっては若い婚約者と新たな門出に繰り出そうとしたまさにその瞬間であったりと、その構造は極めてシンプルでテンプレート通りなものとも言える。

関連記事