『リクはよわくない』にはアニメの快楽性が備わっている 動きのない一枚絵の持つ力強さ

 日本でペットとして最も人気のある動物の代表格が犬だろう。おそらく、読者の中でも家族の一員として溺愛している人も数多くいるのではないだろうか。そんな人たちにオススメしたいアニメ映画が、飼い主と犬たちの関係性を描いた『リクはよわくない』だ。

 『リクはよわくない』は大の犬好きとして知られるタレント坂上忍が、愛犬のリクとの実際の日々の出来事を基に物語を構築し、お笑いコンビ野性爆弾のくっきー!が絵を担当した絵本が原作のアニメ映画だ。作中では幼稚園児である「ぼく」を主人公として、リクやほかの犬たちとの交流を描いている。

 まず、第一印象として、そのビジュアルに圧倒される。近年のアニメ作品はキャラクターの輪郭を表す線が繊細なものが多い。一方で本作は原作通りに輪郭線が真っ黒で太く描かれている。また背景も実写と区別ができないほど正確で写実的な描写の作品も増えているのに対して、こちらはあくまでも“絵”であることにこだわり、簡素でシンプルな背景が多くを占めている。

 その影響や、元々が子供向けの絵本ということもあり、本作はまるでNHKのEテレで放送されている、児童・幼児向け作品を連想するような映像に仕上がっている。

 現在日本で一般的に劇場公開されている商業アニメは動きが精緻で派手であったり、光など撮影処理を多く取り入れており、一見しただけで美しいと感じられる映像美が注目を集める作品が多い。しかし、本作は動きが派手な部分は少なく、ともすれば紙芝居と揶揄されてしまう可能性もある作品ではある。

 今作のエンドロールを見る限りでは、62分という短尺もあるのだろうが、原画などの映像面のスタッフが少なめであった。もちろん、予算やスタッフがたくさん確保できれば今作でも派手な映像美を誇る作品ができたかもしれない。しかし、その限られた中から魅力あふれるアニメの映像を提供するために工夫を重ねてきたのが、日本のリミテッドアニメーションの歴史でもある。

 本作で特に強く感銘を受けたのは動きのない一枚絵の持つ力強さだ。本作の中盤ではリクが部屋の中から外を眺めている長回しのシーンがある。そこでは家の輪郭線が揺らぎ、色調も暗くなっており、リクの体の弱さとその先の展開を、より感じさせるシーンとなっている。病弱であるリクの一生に対するある種の苦痛や諦念などを感じさせるシーンとして機能し、観客を引き込むほどの力を備えていた。

 そうした工夫の結果、本作のアニメとしての絵の力は、他の作品との比較が難しいだけで、商業作品としてもスクリーンに耐えられる十分に高いものがあると感じた。全体を通して映像作品として破綻しないように映像をコントロールされていることで、くっきー!の描いた素朴で力強い絵が動き出すという、アニメの元来持つ快楽性が十二分に備わっているためだ。今回のデザインで派手に動き回ると、それは却って原作の持ち味を損なう可能性があったように思う。

 本作は病気がちな犬であるリクと、犬が好きなぼくの交流を中心に描かれている。物語そのものは62分と映画としては短いものとなっているが、リクとぼくや他の犬たちとの拙い交流を描く序盤、リクたちが心を通わせていく中盤、そして終盤と物語の構成が行き届いている。OPや中盤で楽しい歌が流れ、子供たちも飽きることなく鑑賞すると共に、メリハリがついて、ぼくと同じくらいの年頃の子供にも飽きづらい工夫が凝らされている。

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