町田啓太演じる土方歳三はあまりにも美しかった 『青天を衝け』に刻まれた2人の男の死

 「前を向いて生きる」。篤太夫はかつて、土方と出会った時も同じことを言っていた。「日本のために、潔く命を捨てるその日」に向けてひたすら前を向くのだという土方の言葉に返したものだった。第27回こそが彼の「その日」だった。そう思うと、なんと初志貫徹した人生だったことだろう。彼の登場する場面は決して多くはなかったが、町田啓太が演じた土方歳三の人生は、一瞬もブレることなく美しかった。まるで篤太夫・土方の「一夜限りのバディ結成回」のような第20回が描かれ、その後「もう一人の渋沢」成一郎を「同志」と呼んだ彼は、箱館で、洋装に身を包み、西洋式の戦い方を身に着け、西洋の医療のあり方を高松凌雲(細田善彦)から聞いて面白がり、あくまで前向きに、日本の未来を見つめ、「その日」を迎えた。

 本作における彼の最後の仕事は、「生の匂いがする」成一郎を生かすことだった。篤太夫の元に「もう一人の渋沢」を帰すことだった。その後の成一郎のシークェンスも印象的だった。戦場の中、目の前で命を落とす仲間を目の当たりにした瞬間、成一郎の世界は突然色を失う。天狗党の乱で命を落とした藤田小四郎(藤原季節)をはじめとした、先に死んでいった友たちの姿が回想として示される。色を失った世界において、彼らの生きた証とも言える血の赤のみが鮮やかだ。その後、慶喜(草なぎ剛)と篤太夫という、生きている主君と友を思い起こすことで、彼の世界は再び色を取り戻す。土方が言う「あの世で友と酒を酌み交わす」未来と、「生きて友と再会する」未来はその瞬間天秤にかけられ、土方の言葉と、篤太夫の生命力が、成一郎をこちらの世に引き留めたのであった。

 声を出して泣きながら歩く成一郎の姿は、ともすれば無様で、平九郎(岡田健史)が死に向かうまでのあの道のりとは対照的だ。それが生きるということなのだろう。無様で、みっともなくて、美しくはない。本意でない「新しい世」を見つめ、信じた主君の真意はわからぬまま、川村(波岡一喜)や惇忠のように、「命を持て余して」その後の人生を生きていくしかないと、後々思うのかもしれない。それでも「生きていれば」と栄一が言うように、勤勉な彼らは自分にできることをするのだろう。そして、そんな彼らが新しい世を作っていく。その未来は、きっと明るい。

■放送情報
大河ドラマ『青天を衝け』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00~放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00~放送
出演:吉沢亮、小林薫、和久井映見、村川絵梨、藤野涼子、高良健吾、成海璃子、田辺誠一、満島真之介、岡田健史、橋本愛、平泉成、朝加真由美、竹中直人、渡辺いっけい、津田寛治、草なぎ剛、堤真一、木村佳乃、平田満、玉木宏ほか
作:大森美香
制作統括:菓子浩、福岡利武
演出:黒崎博、村橋直樹、渡辺哲也、田中健二
音楽:佐藤直紀
プロデューサー:板垣麻衣子
広報プロデューサー:藤原敬久
写真提供=NHK

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