『お耳に合いましたら。』に凝縮された幸せな時間 「一人ではない」というメッセージ

 また、「テイクアウトもできて、いつでも誰にでも開かれているチェン飯」は、旅行や外食がしづらいコロナ禍の現在、誰にとっても最高の「プチ贅沢」である。弁当のふたを開け、匂いを思いっきり吸い込んだ瞬間、美園は家にいながらどこへでも行ける。気づいたらラジオブースが設置された、チェーン店の店内にいて、彼女の憧れの「ラジオレジェンド」が優しい笑顔で見守っていてくれる。さらに、彼女が語り尽くす「食」にまつわるエピソードは、彼女の人生の原風景そのもので、誰かと何かを食べた記憶なのだ。視聴者は、その強烈な「幸せな時間の凝縮」に圧倒されるとともに、その一見ありふれた、今すぐにでも再現可能な行為に潜む無限の可能性に気づかされ、翌日のご飯を買いに同じチェーン店に駆け込みたくなる衝動に駆られるのである。

 「あ、私ひとりじゃないんだあ」と美園が言ったのは第3話、アパートの薄い壁を隔てた向こう側にいる隣人(濱田マリ)の生活音に対してだった。私たちは今、どこか寂しさと共に生きている。コロナ禍になって、人との関わりが減り、家で好きなものとどっぷり向き合う時間は増えたけれど、飛沫感染対策の透明な壁やマスクに阻まれて、人と濃密に関わる時間は減った。SNSで世界と繋がることはできるけれど、そこには見えない壁があって、「サビ抜き」しなければ「顔が見えない相手に対する過剰に乱暴に雑になってしまいがちな言葉」の数々に刺されてしまうこともある。気づいたら私たちの日常は、そんな見えない壁に覆われていて、自分から歩み寄るアクションを取らない限りは、永遠に他人は他人のまま、「一人の世界」を生きていくしかない。

 美園がPodcastを通してやっていることは、彼女と世界の間の見えない壁を取っ払うことだ。彼女は「好き」を誰かに届けるという行為を通して、自分と世界を隔てていた壁を壊し続けている。思いを言語化することによって自分自身と向き合い、他者に歩み寄ることで、自分が他者に感じていた心の距離と、自分と他者との物理的な距離を縮める作業をずっとしている。それによって、わだかまりは霧散し、「それまで他人だったその人は、私の大事な友人に」なり、気づいたら彼女の周りは、愛すべき不器用な人たちでいっぱいになっている。その世界があまりにも優しくて、それがテレビを観ているこちら側の毎日になんだか似ていて、世界の優しさに気づかされ、思わず涙が零れてしまう。本作はそんな、幸せなドラマなのである。

■放送情報
木ドラ24『お耳に合いましたら。』
テレビ東京系にて、毎週木曜深夜0:30〜放送
BSテレ東/BSテレ東4Kにて、毎週火曜深夜0:00〜放送
配信プラットフォーム各社にて、各話見逃し配信
出演:伊藤万理華、井桁弘恵、鈴木仁、伊藤俊介(オズワルド)、井上想良、草地稜之、駒井蓮、桜井玲⾹、高岡凛花、中島歩、永野宗典、濱⽥マリ、濱津隆之、平⼦祐希(アルコ&ピース)、吉⽥照美、やついいちろう、クリス・ペプラー、遠⼭⼤輔(グランジ)、⽣島ヒロシ、⾚江珠緒ほか
監督:松本壮史、杉山弘樹、松浦健志
脚本:家城啓之、大歳倫弘、灯敦生、松本壮史
原案・企画・プロデュース:畑中翔太(博報堂ケトル)
プロデューサー:寺原洋平(テレビ東京)、漆間宏一(テレビ東京)、山科翔太郎(テレビ東京)、山田久人(BABEL LABEL)
制作: テレビ東京、BABEL LABEL
制作協力:Spotify
製作著作:「お耳に合いましたら。」製作委員会
(c)「お耳に合いましたら。」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/omimi/
公式Twitter:https://twitter.com/tx_omimi
公式Instagram:https://www.instagram.com/omimi

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